(筆洗)「スピークイージー」。古いギャング映画ファンならご存じだろ… - 東京新聞(2021年1月25日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/81893

「スピークイージー」。古いギャング映画ファンならご存じだろう。一九二〇年代の米国。悪名高き禁酒法の時代に無許可で営業していたもぐりの酒場をそう呼んだ。
この場合のイージーとは「落ち着いて」「あわてないで」というニュアンスか。大声で話せない場所なので「スピークイージー」。おおっぴらにはできない酒場である。
コロナ対策の必要性は重々認めるとして、そのやり方に失敗した禁酒法を連想してしまう。政府が閣議決定した新型コロナウイルス特別措置法改正案である。飲食店などの事業者に対し、知事が休業や営業時間の短縮を命令でき、応じない場合は罰則を科す。
感染対策として営業を厳しく規制したいのは分からないでもないが、本当に効果はあるのか。禁酒法の失敗でいえば、国が力ずくで禁止したところで、人は隠れて酒を飲み、売ったのである。スピークイージーは大繁盛し、密造酒でマフィアは大もうけした。
罰則を科しても、残念ながら隠れて営業を続ける店は出てくる。生活のため、営業をやめるわけにはいかぬという事情があるのならば罰則よりも休業や時短営業に対する協力金を手厚くした方がまだ営業規制に応じやすかろう。

今週から与野党の修正協議が始まる。危機の中では荒っぽい手法が認められやすいものだ。「スピークイージー」。「落ち着いて」議論していただきたい。