(余録) コロナ対策で「兵力の逐次投入」との批判をよく耳にする… - 毎日新聞(2021年1月8日)

https://mainichi.jp/articles/20210108/ddm/001/070/045000c
コロナ対策で「兵力の逐次投入(ちくじとうにゅう)」との批判をよく耳にする。旧日本軍はガダルカナル戦などで、強力な米軍に対し兵力を小出しにして次々に撃破された。中途半端な策を小出しにするのは兵法では禁物とされる。
旧日本軍も「戦闘を実行するにあたり、所要に充(み)たざる兵力を逐次に使用するは、大なる過失に属す」(作戦要務令)と戒めてはいた。逐次投入は主動の利を失わせ、むだに損害を招き、ついには軍隊の士気を挫折(ざせつ)させると説いたのだ。
なのに旧軍が兵力の逐次使用に陥ったのは、正確な情報収集を怠って敵の戦力をあなどり、根拠のない楽観にもとづく作戦を立てたからだ。自分らの都合の良いように現実を考える楽観は結局、厳しい現実によって順次打ち砕かれた。
東京で2400人超の新規感染者が報告される中、後手後手、小出しの対策を批判されてきた政府がようやく緊急事態宣言を出した。ただ、対象は1都3県、施策は飲食店の時短が主軸と聞けば、またも「逐次投入」の言葉が浮かぶ。
すでに専門家からは、飲食店の時短中心の策では2カ月後も今と同水準の感染状況が続くとの試算も出ている。飲食店時短で感染拡大を抑えたかに見えた大阪でも再拡大の兆(きざ)しがある。人の移動、接触をより減らす策は必要ないのか。
爆発的な感染急拡大のニュースを聞き、政府のいう「限定的、集中的」施策の効果に疑問を抱く方も多かろう。中途半端な策でもしも緊急事態が長引けば、国民の“士気”の挫折を恐れなければなるまい。