(私説・論説室から) 誰が犠牲になったのか - 東京新聞(2020年12月21日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/75649

白石隆浩被告に死刑−。神奈川県座間市で二〇一七年に男女九人が殺害された事件で裁判員裁判が出した結論だった。この事件は別の視点を与えると、隠れた部分が照射される。裁判の過程で次のような事実が明らかになったのである。
女性Aさん 中学時代にいじめで不登校になり、高校二年で退学。実家で引きこもりに…。同年四月からコンビニでアルバイトを始めた。(殺害時の)所持金は数百円。
女性Bさん 中学で不登校になり、高校一年で退学。母と二人暮らしだったが、母は同年六月に死亡。生活保護を受給し、一人暮らしを始めた。所持金は数百円。
女性Cさん 事件前に二度目の離婚。元夫との間に長女がいるが、出産後は精神科に通い、事件当時は訪問看護のサポートを受け、一人暮らしだった。
数万円の所持金があったのは二人のみ。四人が数千円。三人が数百円だった。それぞれ会員制交流サイト(SNS)に「死にたい」とつぶやいたことなどから被告とつながり、事件に巻き込まれていったのである。
それにしても、いじめ、不登校、退学、引きこもり、生活保護…。まるで過酷な社会に押しつぶされそうな用語が付いている人々である。不安と孤独の中に放り出されていたのかもしれない。何ともやりきれない思いが、今も続いている。 (桐山桂一)