(余録) 大阪地検特捜部による証拠改ざん事件が発覚して10年… - 毎日新聞(2020年12月7日)

https://mainichi.jp/articles/20201207/ddm/001/070/055000c

大阪地検特捜部による証拠改ざん事件が発覚して10年。地に落ちた検察への信頼を回復するため法相の私的諮問機関が提言をまとめている。<現実の社会に目を向け、その変化を感じ取って未来を志向する能力を培い、より高い倫理と品性を身に付け――>
目標は達成したのか。提言に関わった法務省の事務方が黒川弘務氏。コロナ禍の緊急事態宣言下で記者と賭けマージャンをして東京高検検事長の職を追われた。コロナに苦しむ「現実の社会」を軽視した行為。「高い倫理と品性」どころではない。
この問題を機に法相が再び法務・検察の課題を議論する有識者会議を設けた。黒川氏をめぐり、取りざたされた政治との関係も重要なテーマだ。政権に近いとされる人物を検事総長にするために政府が定年を延ばそうとした疑いが強い。だが議題にならず、元裁判官の委員が抗議の辞任をした。
有識者の議論が続く中、安倍晋三前首相の後援会が主催した「桜を見る会」の前夜祭に注目が集まる。安倍氏側が費用を補塡(ほてん)していたことが明らかになり、東京地検特捜部が捜査を進めている。
そもそも政権が黒川氏を検察トップにすえようとしたのは、桜の捜査に手心を加えてもらうのが狙いだったのではないか。そう思う人は少なくない。疑念を持たれること自体、政治の指導者としてゆゆしき状況だ。
一方、検察は組織の名誉回復を目的に捜査してはならない。政治と距離を置き、謙虚に真実を追究する。「倫理と品性」を備える第一歩だ。