<金口木舌>フェンス越しの祈り - 琉球新報(2020年11月27日)

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読谷村大湾の国道58号沿いに大型スーパーや外食チェーン店、自動車店などが並ぶ。米軍嘉手納弾薬庫の一部が返還され、区画整理が進む。本島中部で米軍基地の返還に伴い、新たなにぎわいが生まれた地域の一つだ

▼隣接する同村牧原のフェンスの向こうにチチェーン御嶽がある。牧原自治会の與古田松吉会長は「旧牧原出身者の心のよりどころ」と語る。旧暦9月9日(クングヮチクニチ)の10月25日、約30人がフェンス越しに手を合わせた
▼牧原は琉球王府の牧場で景観豊かな自然に恵まれた。戦後、米軍は全域を接収した。土地を追われた住民は同村比謝などで新たな集落を作った。チチェーン御嶽には米軍の許可を得て入り、祈願や旧盆のエイサー奉納が行われた
▼1995年にはフェンスを二重にして立ち入りを容易にすることを米軍が許可した。だが自治会が新たなフェンスの設置費用を工面できず、実現していない
▼2001年の米同時多発テロ後は米軍の規制が厳格化した。今年はコロナ禍も重なり、年に1度の例祭でも立ち入りできなかった。自治会は村、国にフェンスの後退などを求めている
▼にぎわいが生まれる返還跡地と、戦後75年を経ても出身者が郷里に戻って御嶽に祈ることさえ許されない地域が隣接する。旧集落出身者は高齢化が進んでいる。国がすぐに対処すべき戦後処理の一つだ。