<金口木舌>指先を目にして - 琉球新報(2020年11月20日)

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家族、親類の笑顔に囲まれて安里要江(としえ)さんが幸せそうな表情を浮かべる。告別式会場に著書などとともに多くの写真が展示されていた。安里さんの過酷な沖縄戦体験は映画「GAMA 月桃の花」のモデルになった

▼99歳で亡くなる1年前まで体験を語り続けた。沖縄戦と戦後の収容所生活で夫や子どもたちを失った。糸満市の轟(とどろき)の壕(ごう)で日本兵が「子どもを泣かすな」と銃剣を突きつけた。生後9カ月の長女、和子ちゃんが餓死(がし)した
▼「ローソクの火が消えていくみたいに」亡くなった。壕は暗闇で顔は見えない。「指先を目の代わりにして和子をなで続けた。死んだ人をおぶって逃げることはできない。お祈りをして壕の中に置いてきた」。収容所で長男の宣秀ちゃんを亡くした。語るたび体を引き裂かれる思いだったに違いない
▼戦後も恐怖にうなされた。「米兵が怒鳴り込んで来る夢を見る」「今でも暗闇が嫌で夜も電気を消せない」。それでも体験を語り、子育てや婦人会活動、議員活動に奔走した
▼告別式で喪主の常治さんが弔辞を述べた。「あの世で和子ちゃんや宣秀ちゃんと再会していると思う」
▼安里さんの語りを聞くことはもうできない。ただ残された多くの言葉から思いを引き継ぐことができる。「子や孫に絶対に戦争を好むような人になってほしくない。体験するのは私たちで終わりにしてほしい」