(地獄耳) 雇用裁判の不条理 さあ次は政治の出番だ - 日刊スポーツ(2020年10月16日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202010160000110.html

★コロナ禍で倒産、失業が増加することはわかるはずだ。デジタル化でAIが人間の労働力にとって代わる可能性があることもいくら何でも承知しているだろう。実態を詳細に知らなくても多少の想像力を働かせればわかるのではないか。それでも13日に最高裁判所第3小法廷で非正規従業員に賞与や退職金が支払われなかったことの是非が問われた大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件の判決、契約社員に退職金を支払わなかったケースとアルバイト秘書へのボーナス不支給をいずれも「不合理とまでは評価できない」という結果に衝撃を覚えた。

安倍内閣の政策の目玉「働き方改革」は同一労働同一賃金などだったが、どうやらそんなに単純ではない。同一労働同一賃金は、正社員・非正規雇用契約社員・アルバイト・派遣)の待遇差を是正することが目的だが「同じ仕事をしていれば同じ賃金」というわけにはいかない。原則は業務内容、責任、配置変更範囲、その他の事情があるか否かが問われる(パート・有期法8条)。

★派遣従業員たちには納得できない部分も残るだろうが、最高裁裁判官・林景一は退職金不支給が不合理となる場合はあり得る、退職金制度設計に関する企業の裁量は大きい、今後の対応はライフプランに応じて多種多様であることなどを補足している。この判決を額面通り受け止めれば、最高裁はわかっていないと思われがちだが、この補足により、企業の人事担当者らが最高裁判決を盾にすべてのケースに「退職金や賞与を支払わなくていい」が当てはまるものではないと釘を刺している。その意味では一部の支給を認めた高裁判決を覆したものの補足においてその先の議論を想定したといえる。だが冒頭に書いたように現実は最高裁の丁寧な判断を超える可能性があり、もっと乱暴なことになりかねない。経済的にも追いつめられる非正規雇用が裁判で戦うことなどできない。さあ次は政治の出番だ。そのあいまいな部分をどう法律で補うか。政治の仕事は判決を批判するだけではないはずだ。(K)※敬称略