(筆洗) 文芸春秋編集長などを務めた池島信平は日米開戦の前、歴史学者… - 東京新聞(2020年10月3日)

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文芸春秋編集長などを務めた池島信平は日米開戦の前、歴史学者羽仁五郎を訪ねている。破竹の進撃を始めていたドイツについて、<やがて同盟国の反抗に遇(あ)って負けますよ。必ずドイツは負けます。こんな国と日本が組んだら大へんだ>と聞く。
あまりの正しい予想に敬服したと池島は戦後、書いている。(『雑誌記者』)。マルクス主義史観の羽仁らは思想弾圧を受け、言論界に、沈黙も訪れた時代である。「正しい予想」も世の中には大きな影響を与えることはなかった。
戦後、羽仁も加わって発足した日本学術会議は、学問と思想の自由を掲げることになる。政府と軍事をめぐる問題などで関係が緊張したこともある。「正しい予想」が生かされなかった戦前の反省が、どこかにあったのかもしれない。政府が露骨に組織の人事に踏み込んだことはなかったという。
権力と学問の関係の中で不安がよぎる話である。菅義偉首相が、日本学術会議の新会員候補六人の任命を拒否した。なじみのある名前も並んでいる。特定秘密保護法に反対を示していたことなど、政府の方針に対し、どんな立場だったかが、理由になっている可能性があるという。
法的にも妥当性に疑義が出ている。詳しい説明が必要だろう。お気に召さない人を遠ざけるのが菅さんの手法なら、それも気になる。
学問の世界に沈黙がおとずれないことを願う。