(余録) テニスの大坂なおみ選手は… - 毎日新聞(2020年9月28日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/58220

テニスの大坂なおみ選手は全米オープンに毎試合、黒人差別反対の黒いマスク姿で出場し、「あなたはどんなメッセージを受け取りましたか」と問いかけた。もちろん、その問いは私たち日本人にも向けられている。
「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ、BLM)」運動が告発するのは、米国社会で感じる命に関わる生きづらさだろう。その始まりは400年前、海の向こうから奴隷として無理やり連れてこられた強制にある。
奴隷は解放され、公民権が与えられても、時代ごとの合法的制度が差別構造を温存してきた。抗議デモの「400年続いている」という叫びは、歴史の源流が今に続くと訴えている。運動が波及した英国でも植民地主義者らの像が倒された。
朝鮮の人々を当人の自由な意思に反し、海を越えて連れてきて働かせた歴史は日本にもある。条約を結び、法律に基づき、形式的同意を得たといっても、構造的な支配の仕組みを使ったやり方は、黒人差別の歴史と重なる。
日韓首脳が9カ月ぶりに話をした。菅義偉首相は元徴用工問題で冷え込む両国関係を「放置してはいけない」としながらも、韓国側に「適切な措置を求める」立場を強調した。
合法的であることは重要だが、万能でも不変でもない。「完全かつ最終的解決」を取り決めた日韓基本条約も、時の国際情勢と両国トップによる政治決断の産物だった。BLM運動は米国史にとどまらず、世界中の支配し支配された歴史に対する問いかけでもある。