(筆洗) 怪しげなこと、力をたのむこと、世を乱すようなこと、鬼神に関… - 東京新聞(2020年9月23日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/57162

怪しげなこと、力をたのむこと、世を乱すようなこと、鬼神に関することを、孔子は語らなかった。論語にいう<怪力乱神を語らず>は、後世に伝えられている。立派な人物は、理性で説明できないことを口にすべきではないという戒めである。
孔子の時代からおよそ千数百年後にも、戒めは生きていたようだ。吉田兼好は<とにもかくにも、虚言(そらごと)多き世なり>と、うそや根拠のない話ばかりの世の中を嘆きつつ、<よき人はあやしき事を語らず>と徒然草に書いている。
人の性質も虚言の多い世も、どれほど時がたとうと簡単に変わらないものらしい。先日発表があったイグ・ノーベル賞で「医学教育賞」の受賞者にトランプ米大統領ら九カ国の首脳が選ばれた。コロナ禍のなか、あやしき事を語ってきた顔ぶれが並んでいる。
ウイルスは「奇跡のように消滅する」と言い、抗マラリア薬の効果をうたっているトランプ氏のほか、コロナは「ちょっとした風邪」のブラジル大統領、ウオッカが効くと言ったベラルーシの大統領もいる。思えば、国の大小を問わず首脳の言動が世を乱すことの多いこの半年余りだ。
授賞理由は「政治家が学者や医師よりも生死に影響を及ぼすことを知らしめた」だそうだ。笑って考えさせる賞の皮肉は効いている。
さほど大きなニュースにならなかったようだが、後世に伝えるのには有意義な賞だろう。