(余録) 福岡の筑豊は炭鉱労働者の町だった… - 毎日新聞(2020年8月30日)

https://mainichi.jp/articles/20200830/ddm/001/070/087000c

福岡の筑豊は炭鉱労働者の町だった。少ない賃金でも大酒を飲み、カネがなくなると、わが子に盗みをさせる父親もいた。小学5年生の男児が書いた「どろぼう」という詩がある。

<父ちゃん 何し僕をどろぼうに行かするトか 悪いチ知っちょって 何し行かするトか。待っちょってやるき いもをほって来いチいうたり どう線をぬすんで来いチいう。僕、おとろしいトばい。(略)小使いげなくれんだチいいき 父ちゃん もう、どろぼうせんごとしょう>

人権派弁護士として有名な中山武敏さんが自伝「人間に光あれ」の中でこの詩を紹介している。非行には見過ごせない理由がある。罪だけ見て罰するのはたやすい。問題の本質を見つめることが大切だと言う。
18、19歳の犯罪が厳罰化される見通しだ。少年法の見直しを進める法制審議会は9月にも最終案をまとめる。教育の視点が軽視されれば更生の機会が奪われる。「どろぼう」の子のように家庭環境が事件につながるケースは今も多い。
中山さんは1944年に福岡の被差別部落で生まれた。大学の夜間部で学び、司法試験に合格する。母が廃品回収のリヤカーを引き、家計を支えた。差別されても、人間の良いところを見ることを教わった。そんな親がいなければ自分も道を誤っていたかもしれない。そう思い、人と向き合ってきたのではないか。
中山さんは弱い立場の人に寄り添い続けている。その人生の軌跡から、子どもを包み込む少年法の精神の大切さを教えられる。