(筆洗)「まっすぐな道で迷った者はいない」。文豪ゲーテが残し、語り… - 東京新聞(2020年8月28日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/51631

「まっすぐな道で迷った者はいない」。文豪ゲーテが残し、語り継がれている言葉の一つである。人は固い信念があるとき険しい道であっても、まっすぐに進んでいくことができる。そう言っていようか。
米国からのニュースに、驚かされた。テニスの大坂なおみ選手が勝ち進んでいた大会を棄権した。警官による黒人男性の銃撃事件に対する抗議である。プロ選手にとって試合をあきらめる決断は、どんな大会であっても、痛みを伴うはずだ。スポーツ界からの政治的な行動と受け取られて、批判を招くおそれもあるが、まっすぐ進んだ決断であったようだ。
それを感じさせる強い思いがこもったメッセージを、自身のツイッターに投稿している。自分は選手である前に黒人女性であり、自分のテニスを見ることより重要なことがある、白人が多数を占める競技の中で会話が始まるといいと。
強い使命感も思わせる言葉だろう。「いつになれば、もう十分になるの」などと、嘆きと憤りの荒い息遣いを感じさせる言葉も書き込んでいる。
状況は悪化している。今回の事件が起きたウィスコンシン州では、抗議デモに対し、銃で武装した自警団が現れたと報じられていて、緊張が高まっている。
抗議の行動は大リーグなど他のプロスポーツでも拡大していた。大坂選手のようにまっすぐな道をみている選手は、増えているようである。