(余録)<ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し>と詠んだ萩原朔太郎ならずとも… - 毎日新聞(2020年8月9日)

https://mainichi.jp/articles/20200809/ddm/001/070/115000c

ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し>と詠んだ萩原朔太郎ならずとも、海外旅行の敷居が高い昨今である。新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中、「せめて気分だけでも」と観光各社が知恵を絞っている。北欧専門の旅行会社フィンツアー(東京都港区)はフィンランドの「バーチャルツアー」のライブ動画を有料で配信している。現地在住の日本人ガイドや専門家がとっておきの場所をオンラインで案内する。
南部の古都ポルボー沖に浮かぶペッリンゲ諸島を案内したのはムーミン研究家の森下圭子さん(51)。作者のトーベ・ヤンソンが幼い頃から毎年、夏をすごした。森と海に囲まれ、ゆったり流れる時間。宿泊先のトイレには「最初のムーミン」の落書きがあった。
大学卒業を控え、ムーミンの本と再会したことが森下さんの人生を変えた。ムーミン文学を生んだ国を見てみたい。1994年に訪れたフィンランドの「水が合い」、住み着くことに。
初期のムーミン作品には戦争体験が色濃く反映されている。「ムーミン谷の彗星(すいせい)」で登場人物はえたいの知れない異変と恐怖に向き合う。「地球を滅ぼす彗星」に原爆の投影を読みとる人もいる。「トーベは戦争を憎んでいました」と森下さん。
きょうは作家の誕生日にちなみ「ムーミンの日」。作品が生まれて75年の夏でもある。「僕はただ平和に暮らして、ジャガイモと夢を植えたいだけなんだ」。そんなムーミンの願いがかなう世界であってほしい。