社説 イベントの自粛 必要なのは経済支援だ - 北海道新聞(2020年4月12日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/411536
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、音楽や演劇、演芸の公演、展覧会などあらゆる文化的催しの中止や延期が相次いでいる。
安倍晋三首相は2月下旬、2週間の自粛を求めたのを皮切りに延長を重ね、緊急事態宣言で大型連休明けまでの延長を求めた。
自粛期間は2カ月を超え、なお先が見えない。文化産業は経済基盤が弱く、手を打たなければ、回復不能な事態にもなりかねない。
まず必要なのは、今を乗り切る直接的な経済支援だ。政府や自治体、さらには市民が、ともに支える仕組みづくりを急ぎたい。
中止や延期となった文化芸能の公演は5600件を超え、チケット払い戻しなどの損失は3月中旬時点で推計522億円という。
自粛延長で、春休みに加え、大型連休の収入がまるまる失われた。業界の危機感は当然だ。
音響や照明など、公演を支えるスタッフはフリーランスが多い。生活が立ちゆかず、彼らが業界を離れれば多くの技術が失われる。
小劇場、ミニシアター、ギャラリー、ライブハウスなど、文化の多様性を支えてきた場がひとたび消えれば、再開は容易でない。
スポーツとともに名指しで自粛を求めながら、政府の支援策は個別の補償を避け、他産業と同じ融資制度や給付金などにとどまる。
一方、ドイツでは文化相が「文化は平時だけのぜいたく品ではない」として幅広い支援を約束した。英国でも公的支援団体のアーツカウンシルがアーティストや劇場への資金注入を進めている。
日本の立ち遅れは、ともすれば文化政策を経済効果で語ってきた政府の姿勢の表れではないか。
自粛要請が、同調圧力を強めているのも心配だ。本来、地域事情を踏まえ、安全性を高めながら検討を尽くすのが筋である。
道内の美術館や博物館などが営業再開に当たり、床面に距離をとるための目印をつけるなどしているのは注目したい取り組みだ。
市民のサポートを後押しする工夫も必要だ。美術展や公演などのオンライン配信が広がっている。有料にすれば支援にもなろう。
チケットの払い戻しを求めない人向けの税負担の軽減策を、クラウドファンディングにも拡大するなど、柔軟に考えてもらいたい。
外出自粛の今こそ、文化芸能に慰められる人も多かろう。災害など緊急時に「不要不急」と切られがちな文化の灯をどう守るか、継続的な協議の場が必要だ。文化庁はその役目をこそ果たすべきだ。