緊急事態宣言 大切な命守るために - 東京新聞(2020年4月8日)

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人と会えなくても、心の手はつないでいられる。その思いを広く分かち合うことが必要だろう。刻々と変化する状況を冷静に受け止め、慎重に、でも確実に、この厳しい試練を乗り越えたい。

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政府が改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく緊急事態宣言を発令した。東京や大阪など都市部を中心に新型コロナウイルスの感染が拡大し、このまま放置すれば、患者数が医療の受け入れ能力を超える医療崩壊の懸念が高まったからだ。

◆私権制限措置は慎重に
首相は記者会見で「全国的かつ急速なまん延には至っていないとしても医療提供態勢がひっ迫している地域が生じている。もはや時間の猶予はない」と説明した。
この法律は元々、新型インフルエンザの発生を想定したものだ。感染被害が深刻な場合、国内で十七万~六十四万人が死亡すると試算されている。
今回の宣言には、それに匹敵する甚大な影響があるとの懸念が背景にあるのだろう。その危機感は共有したい。
政府は地域ごとに刻々と変わる状況をより的確につかみ、専門家の意見を尊重しながら、正確な情報を国民に発信し続けるべきだ。どうなったら感染拡大の危機は去り、宣言を解除できるのか、適宜示す責任もある。
宣言に基づいて、対象七都府県の知事には施設利用の制限や医薬品、食品などの収用、医療施設開設のための建物や土地の強制使用ができる権限が与えられた。繰り返しになるが、私権制限を伴う措置は慎重に進めてほしい。
各知事はまず、医療崩壊をさせないための対応を急ぐべきだ。東京都は軽症者らをホテルなどに移し始めた。他の地域も同様の対応が必要だろう。

◆経済対策に多くの課題
重症者を受け入れる医療機関の確保を進め、医療スタッフを守りながら、救える命は確実に救う態勢も整えなければならない。
感染症対策の最後の砦(とりで)は医療である。医療の確保こそが住民の安心につながると心得てほしい。
宣言の受け止めはさまざまだろうが、感染防止へ各個人が確実にできることがある。小池百合子都知事が言うように「とにかく外出を控えること」だ。外出自粛はより多くの人が協力してこそ効果が上がる。会う人の数をいつもより減らすことを心掛けてはどうか。
国土交通省によると、二~三月上旬に通勤せず自宅で仕事をした人は12・6%にとどまった。出勤が必要な業種でも交代勤務にしたり、勤務時間を短縮するなど工夫の余地があるのではないか。
都市部から地方への「避難」も感染を広げる懸念がある。不要不急の移動は控えるべきだ。
地域社会に目を向けると、買い物に行けない高齢者らにご近所が手を差し伸べることも必要だ。不自由さを乗り切るための知恵を地域で出し合いたい。
感染拡大で深刻な影響を受けている国民生活や経済活動を支える責任は政府や自治体にある。
きのう閣議決定した第三弾の緊急経済対策は、事業規模が約百八兆円と国内総生産(GDP)の約二割に当たる額に上った。生活不安が広がる中、過去最大の対策を打ち出した姿勢は評価したい。
ただ多くの課題も残る。まず現金給付の対象に制限を設けたことは依然、疑問だ。線引きが複雑で実行の遅れを招きかねない。
給付を待ち望む世帯は多いはずだ。申請手続きの際、対象かどうかの判定で時間がかかることは避けたい。国と自治体は緊密に連携し、より早く給付が行き届くよう最大限の努力を払うべきだ。
手続き方法が広く周知されるのかも心配だ。情報の伝達不足で給付が行き渡らない事態があってはならない。給付漏れがないよう、きめ細かく配慮してほしい。
中小企業やフリーランスを含む個人事業主への給付についても迅速な対応が必要だ。柔軟な姿勢で給付を急がなければ、倒産や生活困窮者が激増しかねない。
中小企業への納税や社会保険料の支払い猶予は、企業体力に応じて期間を延長できる仕組みを整えてほしい。店を開けない外食店などを念頭に置いた休業補償も必要となるだろう。

◆社会的弱者にこそ手を
今回のような感染拡大や災害発生などの非常時には社会的に弱い人々にしわ寄せが行きやすい。
緊急経済対策は当面の暮らしを支えることが最大の目的だ。収入が途絶えつつある世帯や介護、子育てに追われる人たち、いわゆるネットカフェ難民ら、より強い不安を抱える人々に行き届かなければ意味がない。
そうした人にこそ、まず手を差し伸べる。国や自治体のトップや関係者は肝に銘じるべきである。