(筆洗)「この世にはふたつの人間の種族しかいない。まともな人間とまともではない人間」 - 東京新聞(2020年4月6日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2020040602000105.html
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人間は善と悪の心を併せ持っていて絶対的な善人も悪人もいないというのが一般的な見方だろう。そう信じたくもある。
精神医学者のフランクル第二次世界大戦中のユダヤ強制収容所での過酷の日々から異なる考えに行き着いた。「この世にはふたつの人間の種族しかいない。まともな人間とまともではない人間」(『夜と霧』)-
ナチスの人間の中にもユダヤ人のために自腹を切って薬を買い与える者もいる。ユダヤ人の中にも同じ境遇に苦しむユダヤ人をさいなむ者もいる。極限の状況下、追い詰められた人間は善か悪かのいずれかを選ぶようになると書いている。
信じたくないが、フランクルの考えに傾きたくなる。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、その困難に便乗した詐欺電話が相次いでいるという。いつだって詐欺は許せないが、人が助け合うべきときである。邪(よこしま)なたくらみに腹が立ってしかたがない。
電話をかけてきて、助成金や見舞金が出ると偽り、現金をだまし取ろうとする手口。「マスクを送付します」と、人の弱みにつけこんだ言葉で気を引くケースもあるという。
一カ月半ほど前、何人かの読者から使ってとマスクが小欄宛てに郵送されてきた。世の中にはこんなことができる人がいる。胸がいっぱいになる。残念だが、別の「種族」もいる。妙な電話にはくれぐれもお気をつけいただきたい。

 

 

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録