内戦のリビア 各国は軍事介入やめよ - 朝日新聞(2020年3月21日)

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9年にもおよぶ内戦から抜け出す糸口が見えない。地中海に面した北アフリカの国、リビアの厳しい現実である。国際社会は一致して、和平に向けた努力を尽くして欲しい。
リビアでは、4年ほど前に国連の仲介で暫定政府が出来た。だが、東部を拠点とする武装組織「リビア国民軍」がこれを拒否したため、戦乱が続く。昨年4月には国民軍が暫定政府のある西部トリポリに向けて進軍を始め、戦闘が激化した。
国連や関係国の働きかけで一時的な休戦にこぎつけ、今年2月には双方が停戦協議の席に着いた。だが休戦は直ちに破られ、交渉は暗礁に乗り上げた。
混迷をいっそう深めているのは外国の介入だ。国連の認める暫定政府をトルコやイタリアなどが支援する。国民軍はロシアやサウジアラビアなどの後押しを受け、米国も支持している。
とりわけトルコとロシアの責任は重い。トルコは昨年末に暫定政府と軍事協定を結び、派兵を始めた。ロシアは民間軍事会社が数千人の傭兵(ようへい)を送り込んでいるという。石油の豊富なリビアでの影響力確保や、シリアでの対立が絡みあっている。
武器や兵士の流入が止まらなければ和平は望むべくもない。ロシアとトルコの首脳は国際会議で、国連安保理決議が求める武器禁輸の順守や、軍事支援の停止を明言した。国際社会への約束を破ることは許されない。
安全保障への影響は国内にとどまらない。国境管理がままならず、国際テロ組織アルカイダ系の団体や過激派組織「イスラム国」(IS)にあらたな活動場所を与えている。マリやソマリアなど周辺国の武装組織にも武器が流れ、アフリカの治安を悪化させている。
深刻な人道危機に目をつぶってはなるまい。国連によれば、リビアでは約35万人が家を追われ、90万人が援助を必要としている。流れ込む移民につけ込むブローカーも暗躍する。地中海をボートなどで渡り、欧州に向かう移民や難民は昨年まで6年続けて10万人を超し、沈没などによる死者は2万人に迫る。
国家統治の崩壊で心配されるのが衛生状態の悪化である。国連と欧米など9カ国は今週、暫定政府と国民軍の双方に「人道的休戦」を求めた。新型コロナウイルスへの対策に注力するよう促すためだ。
同様に内戦の続く中東イエメンで3年前にコレラが蔓延(まんえん)し、100万人を超す集団感染を生み、2千人以上が死亡したことは記憶に新しい。
危機をこれ以上深めてはならない。暫定政府と国民軍を支える国々がすべきは、軍事援助ではなく、和平への説得である。