消費者団体訴訟 担い手の裾野広げたい - 信濃毎日新聞(2020年3月21日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200321/KT200319ETI090009000.php
http://archive.today/2020.03.21-103349/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200321/KT200319ETI090009000.php

消費者被害を受けた人たちに代わって、消費者団体が裁判を起こせる仕組みができて4年。初の判決を東京地裁が言い渡した。広く被害回復を図る制度の意義と課題にあらためて目を向け、活用につなげたい。
入試で女子や浪人生を不利に扱った東京医科大に、受験料を返還する義務があることの確認を求めた訴訟だ。地裁は「法の下の平等を掲げた憲法の趣旨に反する」と指摘し、返還義務を認めた。
消費者団体による代行訴訟は、2016年施行の消費者裁判手続き特例法で制度化された。裁判は2段階に分かれ、団体はまず、損害賠償義務の確認を求める。今回の判決もこの段階のものだ。
賠償義務が確定すれば、次の段階で消費者団体は被害者の参加を募り、裁判所が一人一人への支払額を決める。被害者は、敗訴する心配がないことに加え、自分で裁判を起こすよりも費用や手間をかけずに済む利点がある。
悪徳商法などによる消費者被害は、被害者が広い範囲に及ぶ一方、個々には損害額がそれほど大きくない場合が多い。相次ぐ被害のたび、裁判に踏み切れずに泣き寝入りを強いられる人が出る。
その救済を図るために設けられた仕組みである。今回、判決が確定して多くの受験生の被害回復につながれば、制度の定着に向けた一歩になりそうだ。
ただ、課題も浮き彫りになっている。一つは、賠償の範囲が財産被害に限られることだ。精神的な苦痛に対する慰謝料や、けがの治療費は対象にならない。
このため、東京医大の入試をめぐっても、代行訴訟とは別に、慰謝料を含めた損害賠償を求める集団訴訟が起きている。被害者を広く一括して救済するはずの仕組みが、かえって間口を狭めていないか。見直しが必要だ。
今回の裁判を含め、提訴はまだ3件にとどまる。国の認定を受け、代行訴訟を起こせる団体も、東京、大阪などに三つしかない。
制度の活用を阻んでいる最大の要因は、消費者団体の苦しい財政だ。活動を広げられず、代行訴訟を担うことに二の足を踏むところは多い。敗訴すれば費用は団体の負担になる。勝訴しても賠償額が少なければ報酬は限られ、持ち出しになる可能性がある。
弱い立場の消費者を守る仕組みが本来の役割を果たすための基盤ができていない。国や自治体が財政面の支援を拡充して担い手となる団体を増やし、制度の裾野を広げていくことが欠かせない。