【私説・論説室から】アカデミー賞と日本人 - 東京新聞(2020年2月17日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2020021702000144.html
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気になった発言だった。
アカデミー賞でメーキャップ・ヘアスタイリング賞を受賞した日本出身のカズ・ヒロ(辻一弘)さんが日本人であることの受賞への影響を聞かれ、苦笑いしながら答えた。
「私は日本を去って米国人になった。なぜなら日本文化に疲れたし、夢をかなえることが日本では難しいからだ」といった内容だったろうか。米国籍を取得し改名までしていた。
これだけの短いやりとりだったのでその理由まで聞けなかった。以下、勝手な推測だ。
発言を聞いて真っ先に就職活動中の大学生の「学校では人と違うことをするな、みんな同じにと言われて育って、就活では個性を出せと言われてもできない」という嘆きを思い出した。
日本は同調圧力の強い社会だと言われる。出るくいは打たれる社会であることは以前から指摘がある。その雰囲気が強まっていないだろうか。最近、そう感じる。
十六万人超の不登校の子どもたちや、ひきこもりの大人の増加も、社会が人と違うことを許してくれない生きづらさと底辺でつながっているように思えてならない。
カズ・ヒロさんは独学を続け、その道の巨匠と文通で師弟関係を築き道を切り開いてきた。日本に「個」での生きにくさを感じていたのではないか。去られた側としては複雑な思いを抱いた受賞スピーチだった。(鈴木 穣)

 


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