米大統領無罪 議会の責任もっと自覚を - 信濃毎日新聞(2020年2月7日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200207/KT200206ETI090009000.php
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問題の本質は想定通りの評決ではない。
ウクライナ疑惑を巡る弾劾裁判で、米上院はトランプ大統領を無罪とした。上院は与党共和党過半数を占める。証人尋問もなかった公判は案の定、形だけに終わった。
大統領の持つ強大な権限の行使を監視する議会の責任を放棄したに等しい。共和、民主両党が党派対立を前面に打ち出し、米市民間の溝を広げている。
トランプ氏には、軍事支援を見返りに、政敵の民主党バイデン前副大統領の身辺を捜査するようウクライナ政府に圧力をかけた「権力乱用」と、調査に協力しないよう高官らに指示した「議会妨害」の嫌疑がかかっていた。
訴追した下院での関係者の証言で疑いは濃くなった。裁判でトランプ氏は「いかなる法律も犯していない」と反論したが、政府監査院は、ウクライナへの軍事支援凍結は予算関連の法律違反とする報告書を公表している。
民主党は裁判でも、前大統領補佐官らの証人尋問を要求した。新たな事実の暴露を避けたい共和党は認めず、冒頭陳述と最終弁論だけで結審させている。
大統領は一般教書演説で米経済の好調ぶりを誇示した。トランプ氏の就任後、富裕層と低所得層の収入格差はここ半世紀で最悪の水準にまで広がっており、市民を右派と左派とに二分する要因に挙げられている。
分断の溝を埋めるどころか、トランプ氏は少数派の人種や性的少数者、女性に対する差別的な発言を繰り返している。保守派裁判官の任命、中絶禁止の法制化、銃所持の権利擁護、親イスラエル外交といった、自らの支持層に受けのいい政策を優先する。
大統領選で再選を目指すトランプ氏には利するかもしれない。米社会の将来には、どんな帰結をもたらすだろう。
政治が公正な判断でなされているか。今回のような公の場で事実を解明し、理非を見極めることがトランプ氏に自制を迫ることにもなる。与党が大統領の言動を追認するだけでは、議会は機能不全に陥らざるを得ない。
政党間の駆け引きに弾劾が用いられたこと自体に、米政治のひずみが浮かぶ。権力の均衡が保たれていれば、トランプ氏も独善的な手法を貫けないに違いない。
三権分立に基づく民主主義を正常な軌道に戻せるかどうかは、是々非々で最高権力者に対峙(たいじ)する議会の行動に懸かっている。もっと自覚してほしい。