少年法と年齢 見直しの矛盾あらわに - 朝日新聞(2020年1月24日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14338542.html
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少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる場合、いかなる手当てが必要か――。法制審議会の部会の議論が混迷に陥っている。収束の見通しは立たず、予定していた今国会への改正案提出が見送られるのは必至だ。
引き下げがもたらす弊害について関係者の認識はほぼ一致している。だがそれをどうやって補い、問題を顕在化させないかで、答えを見いだせない。
部会が始まって約3年。審議の「前提」である年齢引き下げ自体が、不要かつ間違ったものであることを、もはや正面から認めるときではないか。
少年法は、少年事件はすべて警察から家裁に送り(全件送致主義)、家庭環境や成育歴、交友関係などを調べて、立ち直りを促す点に最大の特長がある。大人ならば起訴猶予や執行猶予つきの判決になって、事後のフォローがないケースでも、少年院で教育したり保護観察処分にしたりして、更生を支える。その効果は、再犯率の違いなどによって裏づけられている。
一方、殺人を始めとする重い罪を犯した少年には、相応の刑罰を科すなど、これまでの法改正で、大人にかなり近い扱いがされるようになっている。
にもかかわらず引き下げが議論されているのは、選挙年齢と民法成人年齢が18歳になったので、足並みをそろえようという事情による。これに、犯罪に厳しい姿勢を見せて世論の支持を得たい政治の思惑が絡む。
少年法に内在する欠陥を正すためではなく、外的要因による「改正のための改正」であることが混迷の根底にある。
部会では18、19歳に関して、警察・検察がまず捜査し、起訴に及ばないと判断したら、家裁に移して保護処分を検討する案などが議論された。だが更生の機会が狭まるとの批判は強く、成案に至らなかった。
法務省は軌道修正を図り、昨年末に新たな案を二つ示した。一つは、全件送致主義を維持したうえで、刑罰を科す範囲を広げることを考えようという、現行制度の微修正案だ。もう一つも、家裁が大きな役割を担う点でいまの仕組みに似ており、とにかく着地点を見いだそうと迷走している印象が強い。
「大人」の定義は統一すべきだという主張は耳になじむが、法律にはそれぞれ目的がある。少年法の20歳という境目は、人間の成熟度や再犯防止効果などを考慮して定められ、これまで実績を重ねてきた。
引き下げありきで法の理念をないがしろにした制度にしてしまえば、生まれるのは、立ち直る機会のないまま再び道を踏み外す若者と、その被害者だ。そんな社会は誰も望んでいない。