大学入試英語 失敗繰り返さぬために - 朝日新聞(2020年1月6日)

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英語民間試験や国語・数学の記述式問題の導入延期を受け、大学入学共通テストの今後のあり方を話し合う有識者会議が、15日に最初の会合を開く。
今回の混迷と破綻(はたん)の原因は、政府が実施ありき・期限ありきで物事を進め、疑問や批判に耳を貸さなかったことにある。
慎重論を唱えた専門家は文部科学省が設けた検討の場から次第に遠ざけられ、しかもその会議の多くは非公開で行われた。問題が広く共有されぬまま、土壇場になって見送りが決まり、受験生や学校現場に多大な迷惑をかけた。反省を踏まえたオープンな議論が不可欠だ。
とりわけ英語については慎重な制度設計を求めたい。政権が打ち出した「話す力」の習得には、読む・書く・聞くに比べて手間やお金がかかる。留学や外国での生活経験の有無といった家庭環境も影響する。
民間試験の活用の難しさが明白になったことで、大学や高校の間には、大学入試センターによる「話す」を含む4技能の統一試験を望む声がある。確かにそうすれば、種類の違うテスト同士で優劣を判定する無理はなくなる。国の機関が主体的に関わることで、試験会場や日程の偏りも改善が期待できよう。
だが、公的試験にすれば全てが解決するという話ではない。かつて韓国では、入試にTOEFLを採り入れる大学が増えて試験対策が過熱し、社会問題になった。そこで政府は公的な統一試験を開発し、共通入試として使うことにした。しかし、本格実施を迎える前に計画は頓挫した。6年前のことだ。
経緯を調べた京都工芸繊維大の山本以和子(いわこ)准教授によると、政府が4技能を指導できる教員を養成・採用せず、授業は文法中心のままだった。このため生徒らの塾への依存度を、かえって高めてしまったという。
高校教育の実態とかけ離れた入試改革は失敗する。隣国の曲折から読み取れる教訓だ。
日本の状況はどうか。文科省の調査では、英検準1級以上に相当する資格や点数をもつ高校英語教員は7割弱で、目標の75%に届いていない。「教員1人に生徒40人では十分な訓練などできない」との専門家の指摘もある。「使える英語」をうたう以上、質量ともそれに見合う教員を配置し、研修を充実させる責任が政府にはある。
そもそも話す力の有無を判断する機会を入試に限る必要はないはずだ。高校が自らの教育成果を確かめるために実力を測ってもいいし、企業が採用活動の際、必要に応じて民間試験の成績を求めても良い。有識者会議はまず、入試に頼る発想を離れることから始めるべきだ。