日中首脳会談 笑顔がゴールではない - 東京新聞(2019年12月26日)

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安倍晋三首相は中国の習近平国家主席と北京で会談し、習氏の国賓としての来日の成功に向け協力することで一致した。だが、尖閣などの懸案で進展はなかった。笑顔での会談はゴールではない。
会談で安倍首相は、来春の習氏の国賓としての来日を念頭に「日中新時代にふさわしい関係を築き上げていくため協力して準備を進めたい」と述べた。
習氏は「首相と緊密な意思疎通を保ち、中日関係を新しい段階に引き上げたい」と応じた。
しかし、沖縄県尖閣諸島周辺領海への中国公船の侵入はじめ、日中間のトゲになってきた懸案について、今回の会談で具体的進展はなかったのが実情である。
日中関係を振り返ると、関係が凍(い)てついていた二〇一四年、習氏は北京で「仏頂面」で安倍首相と会談した。今回の笑顔での首脳会談は歓迎すべきことだが、友好的な雰囲気を演出しただけなら、安倍首相が強調する真の「日中新時代」は築けないだろう。
民主化を求める香港の抗議デモに対し武力行使すらちらつかせる中国の強硬姿勢や、少数民族であるウイグル族への弾圧には、国際社会からの批判も強い。
安倍首相が首脳会談でこうした問題を取り上げて「憂慮」を表明し、「透明性」を求めたことは、一定の評価をしたい。
だが、習氏は「中国の内政問題である」と、従来の立場を繰り返すにとどまった。
ウイグル問題などは中国の内政ではあるものの、国際社会も強い関心を示す人権侵害でもある。安倍首相には、人権問題の改善に動くよう求める、もっと踏み込んだ発言や要望をしてほしかった。
こうした問題に加え、中国での相次ぐ邦人拘束などもあり、自民党内にすら、習氏の国賓としての来日に反対論がある。
もしも、安倍首相の憂慮表明など「強い姿勢」が、主として「国賓来日」に反対する勢力の理解を得る狙いであったならば、その底意は中国に見透かされ、真剣な対応は望むべくもないだろう。
牛海綿状脳症(BSE)などの発生を理由に、中国が〇一年から禁輸としていた日本産牛肉の輸出が解禁されることになった。
習氏の訪日を成功させたい中国の思惑もあろうが、成果の一つとして歓迎したい。だが、日本側は「国賓来日」に前のめりになりすぎず、懸案解決に一歩ずつ取り組む姿勢を堅持してほしい。