記述式見送り 安易な改革繰り返すな - 東京新聞(2019年12月18日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019121802000152.html
http://archive.today/2019.12.17-233342/https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019121802000152.html

受験生の気持ちを五文字で表すとしたら「ふざけるな」だろう。大学入学共通テストで記述式問題の見送りが決まった。穴だらけの「改革」をなぜ止められなかったのか。検証と猛省が必要だ。
記述式は国語、数学で導入が予定されていた。見送りを決めた理由として萩生田光一文部科学相は、採点を請け負うベネッセの関連会社による採点者の決定が試験直前になることなどを挙げた。
約一万人が必要となる採点者にはアルバイトも含まれ、採点のばらつきやミスで公平性が担保できない懸念が指摘されてきた。国会答弁などで萩生田文科相は「事業者には質の高い採点者の確保を求めている」などとしていたが、内実はそんな危うい状態だったのかと驚かされる。
批判が高まらなければ見切り発車するつもりだったのか。ずさんさに不信感は募るばかりだ。
五十万人以上の答案の採点を手作業で行って、公平性を担保することは至難の業だ。二度の試行調査でも明らかになっている。
大学側も早い時期から懸念を示していたと聞く。交付金助成金など、国は大学の収入を左右する権限を握っている。強い立場を利用して、現場の声に耳を傾けずに突っ走ったことが、制度設計の甘さにつながったのではないか。
大学入試改革は、安倍政権の教育改革の目玉とされてきた。二〇一三年、安倍晋三首相が設置した教育再生実行会議が、現在のセンター試験に代わる新テストを提言。これを受ける形で翌一四年十二月、文科省中央教育審議会が、英語民間検定試験の活用と記述式を柱とした新テストを実施するよう答申した。グローバル社会で活躍する人材育成という産業界の意向が強く働いている。
英語民間検定試験についても、地域や家庭の経済事情で格差が生じる懸念が解消されず、導入が延期された。二本の柱の両方を失う異例な事態は、政治主導のひずみが極限に達した結果だろう。方針を追認する格好となった審議会や大学も、現場の声を政策に反映させるという、本来求められる役割を再認識するべきだ。
記述式導入で測ろうとした思考力や判断力、表現力は、確かに子どもたちの可能性を広げていくことに役立つだろう。学校の授業や読書などの言語活動を豊かにすることで育んでいきたい。成果は、大学が二次試験で問えばいい。国は一方的に価値観を押しつけることはやめて、支援に回るべきだ。