[大弦小弦]それお金で買いますか? - 沖縄タイムス(2019年12月18日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/512044
http://web.archive.org/web/20191218003944/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/512044

2012年に米国で出版された「それをお金で買いますか」という本がある。カリフォルニア州の刑務所は、受刑者が一晩82ドル払えば独房の質を格上げできる。南アフリカでは15万ドルで絶滅の危機にひんするクロサイを一定数、狩猟できる

▼渋滞する道路で優先レーンを走る。医師と個人契約を結び優先的に治療してもらう-などの権利も。本は海外の事例だが、日本にもこれをお金にするのかと驚く例がある

▼「私生活データ全てを売買する実験」。東京のIT企業が、こんな事業に乗り出した。被験者の自宅にカメラを設置し、室内の様子を動画で1カ月撮り続ける。カメラは複数の場所に取りつけ、浴室は除くがトイレには置く。報酬は20万円

▼IT企業は「公明正大にデータ取得を宣言し、金銭的対価を提供することは倫理的に間違っているのか議論したい」としている。1300人以上の応募者から4人が選ばれ、今月25日までプライバシーの収録が続く

▼冒頭の本は、ハーバード大マイケル・サンデル教授が著者。売買市場の拡大で、貧富の差という不平等が増幅され、生きていく上で大切な道徳観も腐敗すると懸念する▼売買がどれだけ多様化しても、お金で買えないものはきっとある。人生を豊かにする「プライスレス」をたくさん持てば、資本の論理に振り回されない。(吉田央)

 

 

それをお金で買いますか (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)