首相の強い意欲 独りよがりをいつまで - 信濃毎日新聞(2019年12月11日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191211/KT191210ETI090008000.php
http://web.archive.org/save/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191211/KT191210ETI090008000.php

必ずや私の手で成し遂げていきたい―。臨時国会の閉幕を受けた記者会見での安倍晋三首相の発言である。国会で改憲の議論は滞っているが、首相は依然強い意欲を持ち続けている。
そこに思い違いはないか。そもそも改憲は、首相が「私の手で成し遂げる」ものではない。改憲の手続きに関して、憲法は内閣の権限に何も触れていない。国会が発議し、国民の投票で決める。自民党総裁の立場はあるにせよ、本来、首相が関与する余地はない。
憲法は国家権力の行使に縛りをかけ、個人の人権を守るためにある。首相や閣僚、国会議員に課せられているのは、その憲法を尊重し、擁護する義務である。
にもかかわらず、安倍政権と与党は憲法をないがしろにし続けてきた。安全保障法制を成立させ、平和主義を変質させたことはその最たるものだ。歴代の政権が認めなかった集団的自衛権の行使を一方的な憲法解釈で容認した。
特定秘密保護法共謀罪法も数を頼んで成立させた。治安立法に通じる危うさをはらみ、憲法と根本的に相いれない法だ。沖縄では米軍基地の建設を強行し、民意と地方自治を踏みつけている。
国会の議論を軽んじる姿勢も強まるばかりだ。今国会でも「桜を見る会」の疑惑について首相は人ごとのような答弁に終始し、予算委員会での集中審議に与党は応じなかった。議院内閣制の根元が空洞化しかけている。
それでいて改憲を主張することに道理はあるのか。憲法を改めるなら、人権の保障や民主主義をより確かなものにするためでなくてはならない。横紙を破る当人の主張に重みはない。
首相は会見で、憲法論議をすべきだとの世論が「多数を占めている」と述べたが、都合のいい見方だ。日本世論調査会の10月の調査では、安倍首相の下での改憲に反対する人が半数を超え、国会での改憲論議を急ぐ必要はないとの回答が7割近くに達した。
総裁の任期が2年を切り、状況の打開を狙って衆院の解散、総選挙に踏み切る可能性もささやかれる。首相は「時が来たと考えれば、躊躇(ちゅうちょ)しない」と語った。
改憲を理由に解散権を行使するのは憲法上許されないとの指摘は党内からも出ている。「1強」を背景に独りよがりで事態を動かそうとしないか。引き続き注意深く見ていかなくてはならない。