麻生氏と潜水艦 何のための搭乗なのか - 東京新聞(2019年12月4日)

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麻生太郎副総理兼財務相が今年五月、海上自衛隊の潜水艦に体験搭乗していた。査定作業上の必要があったと説明するが、現職閣僚による異例の搭乗だ。何が真の目的だったのか、疑問が残る。
麻生氏は五月十八日午前、神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地内にある海自第二潜水隊群所属の潜水艦「うずしお」に乗艦。同艦は基地を出航した後、相模湾で潜水し、同日夕に同基地へ戻った。
体験搭乗は麻生氏側の要望だった。実施日は部隊の休日に当たる土曜日で、財務・防衛両省の調整で決まったという。
こうした事実は本紙が報道するまで公表されていなかった。現職や元職の首相・閣僚による潜水艦の体験搭乗は少なくとも過去五年間は確認できないという。なぜ麻生氏が非公表で、部隊休日に異例の搭乗をする必要があったのか。
麻生氏は記者会見で「副総理として国家安全保障会議(NSC)に参加し、財務相として防衛予算の査定作業にも当たっている。自衛隊の現場環境を知っておくことは大事なことだ」と説明した。
確かに麻生氏は、日本の安全保障に関わる重要事項などを審議するNSCのメンバーであり、各省予算を査定する立場の財務省の長でもある。職務上、自衛隊の現場を知る必要性までは否定しない。
ならば、なぜ公表しなかったのか。職務だと言うなら、日程を公表した上で搭乗し、その成果を報道陣に語るべきだった。そうしなかったのは公表できない事情があったと勘繰られても仕方がない。
アニメ、漫画好きの麻生氏は、潜水艦を舞台にした漫画「沈黙の艦隊」の愛読者であることを公言している。異例の搭乗が潜水艦への私的な関心を満たすためでないのなら、説明を尽くすべきだ。
毎年春に行われてきた内閣主催の「桜を見る会」では、安倍晋三首相の事務所が後援会関係者を多数呼び、公私混同と追及されている。麻生氏による異例の搭乗の背景に、多少のことは許されるという長期政権の驕(おご)りや緩みがあるとしたら根が深い。
冷戦終結後、減少傾向が続いていた日本の防衛費は、安倍首相が政権復帰後に編成した二〇一三年度に増額に転じ、一九年度は五兆二千五百七十四億円と過去最大となった。二〇年度も増額要求だ。
麻生氏は膨張する防衛予算を厳しく査定してきたのか。潜水艦に漫然と搭乗し、厳しく査定もしないのであれば、公私混同、私物化との批判は甘受せねばなるまい。