(余録)「彼らは親しみやすく、一般に善良です… - 毎日新聞(2019年11月23日)

https://mainichi.jp/articles/20191123/ddm/001/070/090000c
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「彼らは親しみやすく、一般に善良です。他の何よりも名誉を重んじます。大部分の人は貧しいのですが、貧しいことを不名誉とは思っていません」。日本にキリスト教を伝えたザビエルの日本人への観察である。
イエズス会の結成に加わり、インドや日本での布教を行ったザビエルだった。38年ぶりにローマ教皇としてきょう来日するフランシスコ教皇は史上初の南米出身の教皇であるとともに、イエズス会の出身者としても初の教皇である。
教皇が若き会士だったころに日本宣教を志したのは、ある神父の教えを受けたからだ。健康問題から来日は実現しなかったが、その神父こそ原爆投下直後の広島で被爆者の救護に献身し、後にイエズス会総長となるアルペ神父だった。
広島での経験を「不動の永遠に属している」と述べたアルペ神父である。その言葉を心に刻んだ若き会士が教皇となっての今回の来日で長崎・広島を訪ねる。核兵器廃絶を訴えてきた教皇はそこでどんな言葉を聞かせてくれるだろう。
「すべてのいのちを守るため」は、この訪日のテーマという。フランシスコの名は清貧で鳥やオオカミにも説教したアッシジの聖人に由来する。貧者や難民に寄り添い、環境保護を訴えてきた教皇の新たなメッセージも注目されよう。
富や力が支配する世で、貧しい者、虐げられた者たちにこそ聖なるものを見いだす宗教者の目である。ザビエルは貧しさを恥じず名誉を重んじる日本人を書きとめたが、教皇は訪日後に何を記すだろう。