パワハラ指針 働く人を守るを原点に - 朝日新聞(2019年11月22日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14266228.html
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職場でのパワーハラスメントパワハラ)を防止するために事業主が講じるべき措置や、何がパワハラに該当する行為かなどを、具体的に定める国の指針が大筋で固まった。
厚生労働省はこの案をもとに一般から意見を募り、年内の正式決定をめざすという。「パワハラと認められる範囲が狭い」との心配も残っており、懸念の払拭(ふっしょく)に努めてほしい。
パワハラ対策は企業の自主的な取り組みに委ねられてきたが、大企業は来年6月から、中小企業は22年4月から防止措置をとることが、法律で義務づけられた。相談窓口の設置や社内規定の整備などが求められ、取り組まない企業には厚労省が行政指導で改善を求め、悪質な場合は企業名が公表される。
企業側には、業務上必要な指導との線引きが難しいとの声があり、典型例などを指針で示すことになっていた。
厚労省が先月示した指針の素案では、パワハラを「身体的な攻撃」「過大な要求」などの6類型に分け、「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)」「仕事を外し長期間、別室に隔離」などをパワハラに該当する事例として示した。
一方で、「誤って物をぶつけてしまう等によりけがをさせる」「経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせる」などを、該当しない事例として挙げたため、「まるで使用者の弁解カタログ」と批判を浴びた。
今回の案で、これらの項目は削除された。新たに、パワハラかどうかの判断基準として、相談した労働者の「心身の状況や受け止めなどの認識にも配慮」することも明記された。
だが、まだ万全とは言えない。例えば「社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対して一定程度強く注意する」ことはパワハラに該当しないとされるが、「一定程度強く」の基準はあいまいだ。労働者側に落ち度があればパワハラにはならないと受け取られかねない、との懸念もある。
就職活動中の学生やフリーランス個人事業主など、雇用関係にない人たちを守るための措置は「必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい」との表現にとどまった。これでどれほどの企業が、有効な対策をとるだろうか。
厚労省は、指針で示しきれない部分は解釈の通達などで補い、実効性ある対策につなげたいという。
指針がパワハラの範囲を狭め、使用者側の言い訳に使われては困る。働く人を守るという原点を、忘れてはならない。