皇室制度の今後 政治の怠慢に終止符打つ時 - 朝日新聞(2019年11月18日)

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天皇陛下の即位に伴う儀式は今月の大嘗祭(だいじょうさい)でひと区切りがつく。皇位継承のあり方など皇室制度をめぐる諸課題について、政府は検討を先延ばししてきたが、これ以上の放置は許されない。開かれた場での議論をすみやかに始めるべきだ。
そのさい大切なのは、皇室を取り巻く状況を正しく認識し、手当てを急ぐ必要があるのは何か、主権者である国民の思いはどこにあるかを適切に見極め、将来につなげることだ。
憲法は「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定める。皇室制度は、国会や内閣、裁判所などと同じく国家のシステムでありながら、それを担うのは特定の一家一族に限られるという、他にはない特徴をもつ。
思い通りの絵を白地の上に描くようにはいかず、一人ひとりの年齢や歩んできた道、今後の人生にも目配りしたうえで、結論を導く必要がある。さもなければ制度と現実との間に齟齬(そご)が生じ、多くの人の理解と支持を得るのは難しくなるだろう。

女性宮家の検討急げ

今回の代替わりによって皇位継承順は、秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまとなった。
有資格者が高齢の常陸宮さまを入れて3人なのは心細いが、悠仁さまは13歳になったばかりだ。夏には皇嗣である秋篠宮さま、紀子さまと共に初めて外国を訪問し、ブータンの王室や国民と交流した。いま、継承順の変更につながる見直しをするのは現実的とはいえまい。
一方で、早晩立ちゆかなくなるのが明らかなのは、皇族全体で担ってきた活動の維持・存続だ。皇室は現在18人で構成されるが30代以下は7人。悠仁さまを除く6人が未婚の女性で、皇室典範によれば結婚すると皇籍を離れることになる。
広がりすぎた感のある活動を、その規模に見あう程度に絞り込む作業は必須だし、実際に見直しは進んでいる。だが皇室と社会との接点が減れば、「日本国民の総意」のうえに成り立つ象徴天皇制の基盤がゆらぐことにもなりかねない。
対応策として7年前に野田政権が打ち出したのが、「女性宮家」の創設だ。皇位継承の資格や順位には手をつけない前提で典範を改正し、女性皇族が結婚後も皇室に残って、それまでと同じく活動を続けられるようにしようとしたものだ。ところが安倍政権に交代してから動きは止まってしまった。
この構想について改めて検討を進める必要がある。宮家をたてる女性皇族の範囲や、本人の意思を要件とするか、家族も皇族とするかなど、積み残しになっている課題は少なくない。

旧皇族復帰案の無理

安倍首相が議論を避けてきたのは、宮家の創設が、女性天皇やその流れをくむ女系天皇に道を開く恐れがあるとの懸念からだ。自らの支持基盤で、男系男子路線の護持を唱える右派に配慮しているのは明らかだ。
しかしそうやって歳月を無為に過ごすうちに、皇室の危機はいっそう深まった。この不作為の責任をどう考えるのか。
自民党の一部議員らは、第2次大戦後の改革で皇籍を離れた旧宮家の男性を復帰させる案を主張する。だが約600年前に天皇家から分かれた親王の末裔(まつえい)であり、戦後ずっと民間人として生活してきた人々だ。今さら皇族の列に戻し、国民が成長を見守ってきた女性皇族を飛び越えて「国民統合の象徴」の有資格者とすることに、幅広い賛同が得られるとは思えない。
旧宮家の誰を、どんな手続きで、いかなる順位をつけて皇位継承者にしようというのか。現皇族の養子にして正統性を担保する考えもあるようだが、双方への強制になりかねず、人権に照らして大いに疑問だ。
朝日新聞の社説はかねて旧宮家復活には疑義を唱えてきた。その主張に変わりはない。

■分断避ける知恵を

象徴天皇制を続けていくのであれば規模の維持は不可欠であり、現実的な策として女性宮家問題に結論を出すことを優先すべきだ。政府は識者らから再び意見を聴くなどして、成案をまとめる作業を急いでほしい。
女性・女系天皇については、男女平等の理念や、男子誕生の重圧から皇室を解放しようとの考えから支持が広がる。一方でとりわけ女系天皇への反対は根強く、政党間でも見解が割れ、合意形成は難しい状況だ。
国民統合の象徴をめぐり、国民に深刻な亀裂が生まれるのは好ましくない。継承者の安定確保にむけ方向性を見いだすべく議論を深めねばならないが、性急に答えに至ろうとすると危うさをはらむ。当面は悠仁さまと新女性宮家の様子を見守り、判断は将来の主権者に委ねる。そんな考えもあるように思う。
皇室のあり方を決めるのは国民だ。歴史を尊重しつつ、意識や価値観の変化を的確にとらえ、時代にかなう姿を探る。その営みの大切さを、代替わりを通じて社会は学んだはずだ。