(斜面) デジタル技術が可能にしたスターの「復活」 - 信濃毎日新聞(2019年11月15日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191115/KT191114ETI090012000.php
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やり場のない怒りを抱え、居場所がない。反逆児でありながらも傷つきやすい。米俳優ジェームズ・ディーンが「エデンの東」などで演じた青年像は、ディーンの魂そのものだったとされる。自分が何者か分からずに迷い苦しんでいた

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1955年公開の「エデンの東」は米国が第1次大戦に参戦した1917年のカリフォルニアが舞台。農業を営む父に反抗しつつも愛情を求める息子を演じて高い評価を受け、一躍スターになった。公開半年後の9月、交通事故で24歳でこの世を去った

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伝説の俳優である。そのディーンを「出演」させる映画の製作がハリウッドで始まる。進歩が著しいコンピューターグラフィックス(CG)処理でよみがえらせるそうだ。ベトナム戦争末期に米軍撤退で取り残された軍用犬の悲劇を描く物語でディーンは準主役の役どころという

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日本では美空ひばりさんが没後30年の今年秋よみがえった。NHKとヤマハボーカロイド(合成音声)と人工知能(AI)を組み合わせた最新技術で歌唱を再現。等身大の映像のひばりさんが新曲を歌い上げた。特集番組を見て涙した方も多いだろう

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デジタル技術が可能にしたスターの「復活」だ。音声や表情など故人の権利を巡る議論もやがて起きよう。ディーンはアドリブのせりふが多く名匠エリア・カザンを困らせた。迷い続けた魂が発した言葉も多かったのではないか。新作映画が監督の思い通りの演出ばかりなら少々興ざめだ。