議事録の削除 意に沿わぬ声は葬るのか - 信濃毎日新聞(2019年11月9日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191109/KT191108ETI090006000.php
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社会保障の将来像を話し合う政府主催会議の議事録から、政府の方針と異なる意見が削除されていたことが分かった。
安倍晋三内閣が重要政策に掲げる全世代型社会保障を検討する会議の初会合である。幅広く論議し、制度の改革を決める重要な会議だ。議長は安倍首相が務めている。9月20日に開き、議事録は10月4日に公開された。
国民の将来生活に大きく関係する。政策の決定過程である発言を全て公開するのは当然だ。
それなのに会議は非公開で、内容は議事録でしか分からない。一部を削除すると透明性が確保できず、信頼性を損なう。異論の排除は議論の行方にも影響する。看過できない。
発言したのは、中西宏明経団連会長だ。国内最有力の経済団体トップが政府方針に異論を唱える影響は大きい。表面化させないように削除した懸念が拭えない。
西村康稔担当相はきのうの記者会見で、議事録は本人の了解を得て、趣旨が正確に伝わるように整理や修正を施すと説明し、手続きに問題はないと釈明している。
そうだろうか。削除された内容は発言の核心である。
在職老齢年金制度を巡る議論だ。65歳以上では現在、月額の賃金と年金の合計が47万円を上回ると公的年金の額が減る。政府は働く意欲を損なうとして、年金の減額を見直す方針を掲げている。
一方で減額をやめれば支給額が増えて年金財政が悪化し、将来世代の給付水準が下がるという批判がある。中西会長は現状でも「(働く高齢者の)意欲を減退させることはない」と発言し、政府方針に異論を唱えた。
議事録には「財源の問題もあるので、慎重に検討した方がいい」とあるだけだ。異論の部分が抜け落ちているのは明白だ。
政府はこれまでも都合の悪い公文書や発言などを隠蔽(いんぺい)してきた。南スーダンに派遣した陸上自衛隊の日報を隠し、森友学園への土地売却に関わる決裁文書は改ざんした。省庁幹部と安倍首相が面会した際の記録は作成していない。
中西会長は共同通信の取材に対し「(記載は)政府側の判断だ」と述べている。削除された発言は他にも複数あるという指摘も出ている。徹底した調査が必要だ。
誰がどんな理由で削除を指示して、誰が実行したのか。政権幹部は関わっているのか―。経緯を明らかにして、発言内容を修正する前の正確な議事録を公表しなければならない。