【私説・論説室から】豪メディアの連帯 - 東京新聞(2019年11月6日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2019110602000160.html
https://megalodon.jp/2019-1109-0908-56/https://www.tokyo-np.co.jp:443/article/column/ronsetu/CK2019110602000160.html

ある朝、各新聞社が一斉に、一面記事のほとんどを黒く塗りつぶして発行したら、読者の皆さんは何ごとかと驚くに違いない。そんなことが実際、オーストラリアで起きた。
発端は、アフガニスタンに派遣された豪特殊部隊の民間人殺害を報じた公共放送・オーストラリア放送協会(ABC)本部や、市民への監視強化を報道したニューズコープ社記者の自宅が、警察に家宅捜索されたこと。
これに対し、日ごろ競合している豪メディアが協力し、一斉に「報道の自由が脅かされる」と抗議するキャンペーンを行ったのだ。
力を持つものが「不都合な真実」を隠すため、それに迫ろうとする報道機関に圧力をかけるのは、常とう手段でもある。日本でも、かんぽ生命の不適切な保険勧誘を報じた公共放送・NHKに対して、かんぽ生命側が圧力をかけたことは記憶に新しい。
オーストラリア各紙は黒塗り紙面で「政府があなたから真実を遠ざけるとき、何を隠しているのか?」と読者に問い掛けた。
同じ民主主義社会で、知る権利を守るために、各メディアが組織を越えて連帯を示したことは、報道機関がなすべき方向性を示し、新聞社で働く私たちにも勇気を与えている。
日本でも権力の暴走が起きた場合、報道機関は連帯できるだろうか。日本の公共放送が権力に切り込めるか否かによる、などというやぼは、この際言うまい。 (豊田洋一)