パリ協定離脱 米国は責任を自覚せよ - 朝日新聞(2019年11月6日)

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大国として無責任なふるまいといわざるをえない。米政府が4日、地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定から離脱すると国連に通告した。これから手続きに入り、1年後に協定から去ることになる。
異常気象や自然災害が世界各地で頻発しており、気候変動対策は待ったなしだ。国際社会が一致して温室効果ガス削減に取り組まねばならないいま、世界2位の排出国が協定から抜けるとは、身勝手が過ぎる。
離脱の理由についてポンペオ国務長官は「パリ協定の下では米国の労働者や企業、納税者に不公平な重荷が課されるからだ」という趣旨の説明をした。
だが、歴史的に米国が排出してきた二酸化炭素(CO2)の多さを忘れてはならない。19世紀半ば以降、人間の活動で出たCO2の実に4分の1が米国からで、ほかのどの国をも上回っている。それ相応の責任を負うのは当然である。
だからこそ米国の州政府や大企業の間では、連邦政府の姿勢に関わりなく先進的な取り組みが広がりつつある。トランプ政権の消極姿勢は、こうした動きに水を差すものでしかない。
正式な離脱日は来年の大統領選の翌日にあたる。民主党の有力候補者らは今回のトランプ政権の姿勢を強く批判しており、選挙戦でも政策を競い合ってほしい。気候変動対策が争点の一つになって世論の関心が高まれば、トランプ政権への圧力になると期待できる。
離脱を思いとどまるよう、国際社会が米国に働きかけ続けることも重要だ。
小泉環境相は「おそらくトランプ大統領に翻意を促しても不可能だと思う」と述べた。だとしても、来月、スペインである国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)など、あらゆる機会を利用して米国を説得する努力を続けるべきだ。
特に安倍首相は、トランプ氏との個人的に親密な関係をアピールしてきた。粘り強く働きかけてもらいたい。
もし本当に米国が協定から去っても、パリ協定の推進力が損なわれるようなことがあってはならない。これまでのところ幸い、米国に追随する動きは出ていない。今後も国際社会は結束を保ち、温室効果ガス削減の努力をしていく必要がある。
ただ、それだけでは事態の深刻化は避けられない。パリ協定の努力目標は産業革命以降の気温上昇を1・5度未満に抑えることだが、現状では30年代にも1・5度を超えてしまう。各国は、取り組みをいっそう強化するよう求められている。
米国の離脱騒動で、厳しい現実を見失ってはならない。