公文書不開示 外交を隠れ蓑にするな - 朝日新聞(2019年11月5日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14244491.html
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外交や安全保障を都合のいい隠れ蓑(みの)にしていないか。政府は公文書管理と情報公開の重要性を徹底すべきだ。
外務省が情報公開請求に対し、すでに公になっている文書の内容を不開示としていた。信じがたい不誠実な対応である。
一つは、朝日新聞記者が求めた1968年の「沖縄返還問題の進め方について」。緊急時の米側の核兵器持ち込みをめぐる記述が黒く塗りつぶされた。
もう一つは、ジャーナリストの布施祐仁氏が求めた日米行政協定(日米地位協定の前身)の改定交渉に関する50年代後半の文書だ。27点中26点が全部または一部不開示となった。
いずれも国の安全や米国との信頼関係を損なうおそれなどが理由とされた。ところが、朝日新聞が調べたところ、どれも既に公開済みの内容で、今も外務省のホームページなどで誰でも見られるものだった。
請求された文書の過去の扱いを確認するのは当然ではないのか。少ない担当職員で膨大な請求を処理せざるをえず、見落としがあったようだと外務省は説明する。ならば、人員や予算の充実を真剣に検討してほしい。
懸念されるのは、外交や安全保障の機微に触れるのではないかと安易に判断して、不開示ありきの発想で臨んでいないかということだ。
確かに、外交・安保の分野では、ただちには公にできない事柄が少なくない。しかし、交渉や政策決定の過程を記録に残し、一定の年限が立てば明らかにして、歴史の検証に付するのが民主主義国の基本的なルールである。
米国では、30年たったら原則公開という「30年ルール」が早くから確立している。日本政府も76年に、このルールにのっとった外交記録の公開を始めたが、かねて例外が多いと批判されてきた。
外交文書の公開は、外交政策に対する国民の理解を得るのに欠かせない。政府の外交力を裏打ちする効果も指摘されている。例えば、他国との論争で自国の正当性を主張する際、明らかにした過去の経緯が説得力につながるというものだ。
民主党政権は、岡田克也外相が日米密約の検証を行うなど、外交文書の公開を積極的に進める方針を鮮明にした。しかし、政権交代でその機運はすっかりしぼんだようにみえる。
第2次安倍政権では、特定秘密保護法の制定や、財務省の公文書改ざん、自衛隊の日報問題など、情報公開や公文書管理を軽んじる姿勢が、外務省のみならず、政府全体に蔓延(まんえん)している。今回の件も、そんな政権の体質と無縁ではあるまい。