神戸教員間暴力 「強行」処分の危うさ - 朝日新聞(2019年11月4日)

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許しがたい行為をした職員は厳正に処分すべきだ。しかし、急ごしらえの規定をあてはめ、有識者審査会の反対を押し切った処分は危うく、公正の原則を揺るがしかねない。
神戸市立東須磨小での教員間の暴力・暴言問題で、市教委は加害側の4人を「分限休職」処分とし、給与の支払いを止めた。4人が問題発覚後、教委の指示で有給休暇をとる形で謹慎していたことに市民らから批判が殺到。久元喜造市長は職員処分に関する条例の改正を打ち出し、市議会が可決、施行と適用へ1週間で手続きが進んだ。
地方公務員法は、職員の処分に関して「分限」と「懲戒」を定める。公務執行の観点から行う分限処分で休職とできるのは、職員が心身の不調のため長期の休養が必要な場合と刑事事件で起訴された場合で、条例で事由を追加できる。
神戸市は、条例改正で「起訴のおそれがあり、職務の続行で公務遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合」を追加し、4人に適用した。「給与の支給に市民の理解は得られない」と強調する久元市長は、「事由の追加に慎重であるべきだというのは平時の考え方。今回の事件の重大性を考えれば平時の考え方は適当ではない」と語った。
疑問を禁じ得ない。市民の声に耳を傾けることは大切だが、公務員の身分保障を軽んじてよいわけではない。新設した規定の内容にはあいまいさが残り、乱用への懸念もある。
外部の弁護士らでつくる分限懲戒審査会も、そうした点を指摘した。4人の行為に軽重があって一律には論じられず、起訴される蓋然(がいぜん)性が高いとは言えないとして、処分について「不相当」と判断。「職員に重大な不利益を及ぼすだけに、正確な事実認定と厳格な判断・解釈が必要。そうした判断は懲戒処分として行うべきだ」とした。
まっとうな指摘と言えるだろう。しかし、市教委は休職処分を決定し、久元市長は審査会を批判する声明を出した。
いったい、何のための審査会か。これでは結論ありきと言われても仕方あるまい。市教委と市は、処分と条例改正について再考するべきだ。
市議会も問われる。条例改正案の採決時の付帯決議で、恣意(しい)的運用を防ぐため審査会に諮るよう求めた。審査結果に拘束力はないとはいえ、それを無視した市側の対応を見過ごすのか。
当面は暴行・暴言の実態とその背景を調べている第三者委員会の活動に協力する。一方で、緊急に職員の出勤を差し止める必要が生じた際の制度について、腰をすえて検討する。それが市や市議会の役割である。