英語民間試験 混乱招いた責任は重い - 東京新聞(2019年11月2日)

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大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入が一日、見送られた。受験に必要なID(識別番号)の申し込みの初日。まさにぎりぎりの決断だ。混乱を招いた国の責任は重い。
四年制大学の七割が、出願資格や加点などの形で民間試験の利用を予定していた。それが見直されることになる。受験生の不安に最大限配慮し、なるべく早く、かつ分かりやすい周知が必要だ。
「会場確保を(試験を実施する)各団体任せにしていたのも反省している」。延期を明らかにした会見で、萩生田光一文部科学相はそう話した。収益を度外視できない民間団体に任せれば、会場は人が集めやすい都市部が中心となる。どこにどれだけ集まるか分からないから、会場や日時の詳細の公表も遅れる。分かりきった話だ。
今回、萩生田文科相の「身の丈」発言に対する世論の反発の高まりが方針転換を促すことになった。なぜそれまでに立ち止まることができなかったのか。まずは厳しい検証が必要だ。そうしなければ同じ過ちを繰り返す。
民間試験導入は、安倍晋三首相が設置した政府の教育再生実行会議が二〇一三年に提言した。グローバル化への対応を迫られる産業界からの要請で始まった「教育改革」だ。
翌年、教育関係者などを集めて開かれた文科省の協議会の議事録を見ると、現在問題となっている点はすでに指摘されている。大学関係者は高額の受験料と地域格差を懸念し、大学入試センターの関係者は、複数の試験を同列に並べて点数化する困難さを挙げた。
懸念が解消されない中、昨年、東京大学は、民間試験を出願資格とするものの、それ以外の手段で英語力を証明できる余地を残すことを明らかにした。今年に入り民間検定試験「TOEIC」は参加を取り下げ、全国高等学校長協会は延期と見直しを求める要望書を文科省に提出した。
「黄信号」「赤信号」と受け止めるべきサインを過小評価した背景には、一度決めたことは後戻りできないという官僚体質が透けて見える。民間試験導入を推進した文科相経験者など「身内」への配慮が優先し、思考停止に陥っていた側面がなかったか。
今後、二四年度の新制度導入に向け、抜本的な見直しに入る。受験生が十分に能力を発揮できる環境が第一だ。今度は、耳を傾ける対象を間違えてはいけない。