徴用工判決1年 協力して打開策探れ - 東京新聞(2019年10月31日)

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もう相手の譲歩を待っている段階ではない。日韓対立の原点となった元徴用工をめぐる韓国大法院(最高裁)判決から一年が経過、影響が広がっている。両国が協力し、有効な打開策を探るべきだ。
安倍晋三首相と李洛淵(イナギョン)韓国首相は二十四日の会談で、対話と交流を維持することで一致した。しかし、肝心の徴用工問題での進展がなければ、対立は解けない。
行き詰まった状況を変えようと、さまざまな提案が出てきた。
韓国政府は、日韓両国の企業が基金を構成して賠償を行う方式を、日本側に提示した。この基金に韓国政府が加わる案も出ている。
日本企業の資産売却(現金化)手続きが進んでいる。売却された場合、日本政府は「対抗措置を取る」と警告しており、日韓関係は決定的に悪化するだろう。
こういった事態を避けるため、韓国政府がまず原告への賠償金を肩代わりし、日本企業に支払いを求める方法や、韓国企業が売却資産を購入し、日本企業に戻すことも論議されているという。
韓国の司法判断を尊重しながら、日本企業の実害も防ぐという現実的な対応といえる。
韓国内には反対意見もあるが、日韓関係を破綻させないための選択肢として、注目したい。
ただ日本政府は、まず国際法違反の状態を是正する措置を取るよう韓国側に求めており、提案を拒否しているという。
外交交渉は、相手への譲歩や妥協も必要だ。韓国を「重要な隣国」(安倍首相)というのなら、原則論で押すだけではなく、寛容な姿勢で臨み、双方が納得できる着地点を探るべきではないか。
一九六五年の日韓国交正常化も、長い協議の上、双方の知恵で実現したことを想起してほしい。
対立の余波で日本への韓国人観光客は六割近く減少、地方経済に打撃を与えている。韓国で人気だった日本製ビールは不買運動に遭い、壊滅状態になった。
徴用工問題は歴史観の違いに関連しており、相互不信の根は深い。
しかしこのまま放置すれば、両国間の豊かな交流が失われかねず、裁判の原告も救われない。政治の責任は重い。
これから、日韓の首脳も参加する国際会議が相次ぐ。困難な状況だが、安倍首相は文在寅(ムンジェイン)大統領との首脳会談を避けてはならない。
首脳同士が関係改善の必要性を確認するだけでも、事態の悪化を食い止める効果があるはずだ。