ゴルバチョフ氏提言 新冷戦脱却の声広げよう - 琉球新報(2019年10月29日)

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世界が新冷戦と呼ばれる軍拡競争に向かっている今だからこそ、かつて壊滅的な世界戦争を回避させた巨人の言葉は非常に重い。
東西冷戦を終結に導き、ノーベル平和賞を受賞したミハイル・ゴルバチョフ氏は本紙のインタビューに対し、日本復帰後も沖縄に核兵器が存在するかどうかを検証する必要があると説いた。中距離核戦力(INF)廃棄条約締結を巡る当時の交渉相手、レーガン米大統領の「信用せよ、されど検証せよ」という言葉を引用して述べた。
復帰後の非核化への疑念を示唆した形だ。8月2日の同条約破棄後、核弾頭搭載可能な新型中距離ミサイルが沖縄に配備されることにも強い懸念を示した。核兵器の存在を検証することへの提言は、今後、沖縄が直面するであろうミサイル配備計画に警鐘を鳴らす意味がある。
世界に向けては、主要各国の指導者と市民社会、それぞれに行動を提起した。指導者には「過剰な感情とプロパガンダ(政治宣伝)を消し去る必要がある」とし、新冷戦の現状に異を唱えることを促した。市民社会には、条約締結の際、「1980年代の反軍国主義反核主義の運動の声がとても強く響いた」と述べ、行動を起こすよう呼び掛けた。
提言の背景には、新冷戦の対立が深まることへの強い危機感がある。INF廃棄条約破棄後、世界で中距離ミサイルの開発競争が進む見通しだ。冷戦後の軍縮体制は「死に体」に陥ったと指摘されており、「核兵器なき世界」を目指す国際的な軍縮の機運は後退を強いられている。
8月18日、米国は規制されていた地上発射型の巡航ミサイル実験を実施した。直後にロシアも北極圏に近いバレンツ海で潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を行うなど、既にさや当てが始まっている。
新型ミサイルの開発・配備、それに対抗した兵器増産という悪循環を断たねばならない。危機回避のために過去から学ぶ必要がある。ゴルバチョフ氏とレーガン氏が87年、INF廃棄条約に調印した際に確認したのは「核戦争に勝利はなく、決して戦ってはならない」という認識だ。米中ロをはじめ各国の指導者はこの原点に立ち返るべきだ。
ゴルバチョフ氏が言うように、核軍拡に対する市民社会の力強い反対の声や運動があったことも忘れてはならない。欧州の多くの一般市民を反核運動に突き動かしたのは「ミサイルの標的にされ、家族や友人ら多くの命が奪われる」との危機感だった。
米中ロの指導者は世界が軍拡から軍縮に転じるための国際協議の枠組みづくりや交渉に本腰を入れるべきだ。そのためには国同士を「脅威」の相手と決め付けずに信頼回復に努める必要がある。社会の一人一人が、この流れをつくる当事者だ。新冷戦からの脱却を主張する力強い世論を広げることが急務と言える。