政府が恩赦を決定 時代にそぐわない制度だ - 毎日新聞(2019年10月19日)

https://mainichi.jp/articles/20191019/ddm/005/070/080000c
http://archive.today/2019.10.19-001127/https://mainichi.jp/articles/20191019/ddm/005/070/080000c

政府が天皇陛下の即位に伴う恩赦を閣議決定した。対象の刑を政令で決めて一律に実施する。対象者は約55万人に上る。
政令や基準を内閣が定めて行われる恩赦は現憲法下では11回目で、天皇、皇后両陛下のご結婚以来26年ぶりだ。国際社会への復帰時や皇室の慶弔時などに実施されてきた。
恩赦は、裁判所による有罪判決の内容や効力を内閣の決定で軽減・消滅させる制度である。そのため、三権分立の原則と整合しないとの批判も根強くある。
今回の政令恩赦は、罰金刑を受けてから3年以上経過した人を対象にした。8割が道路交通法違反といった交通関係とされる。
刑を受けたことで生じた5年間の資格制限がなくなる。具体的には、医師や看護師、薬剤師、調理師などの免許を取得できるようになる。
対象者のうち公職選挙法違反は約430人という。停止されていた公民権が回復する。
上皇さまの即位に伴って1990年に行われた政令恩赦の対象は約250万人だった。今回は大きく減っている。政府は、国民感情や被害者の心情に配慮して、受刑者の釈放は実施せず、比較的刑事責任が軽いものに対象を限定したと説明した。
ただ、政令恩赦は内閣の決定過程が見えず、国民によるチェックの方法もない。選挙違反で公民権を停止された人の救済に関しては、恣意(しい)的な運用の懸念が残る。被害者の意思が確認されることもない。
政府は恩赦の意義について、社会生活上の障害を取り除くことで改善更生を後押しすると解説している。
しかし、こうした事情は個別に判断されるべきだ。現在も、普段から特定の人ごとに恩赦を決める常時恩赦という仕組みがある。
有識者でつくる中央更生保護審査会が日々の行いや再犯の恐れ、社会感情を審査して妥当性を判断し、年間30人前後が認められている。これで十分ではないか。
恩赦は歴史的に権力者の支配手段として使われた。明治憲法下では天皇の大権事項とされた。
今回の措置自体、実質よりも「恩赦ありき」で前例踏襲を重視したように見える。一律に行う制度は、やはり時代にそぐわない。