トルコの攻撃 米国の黙認は無責任だ - 東京新聞(2019年10月11日)

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不安定な中東地域をいっそう混乱させる身勝手な軍事行動である。トルコはただちに攻撃を中止すべきだ。
内戦が8年間におよぶシリアの北部に、隣のトルコ軍が越境作戦に踏み切った。この付近を支配するクルド人勢力を排し、トルコのための「安全地帯」をつくる狙いとみられる。
クルド側は抗戦する構えで、シリアのアサド政権も反発している。国境付近で戦乱と市民の犠牲が拡大するのは必至だ。
トルコではテロが散発的におきており、分離独立をめざすクルド人勢力との関連が指摘されてきた。だとしても隣国に攻め込むのは乱暴に過ぎる。
今回の陰の責任者はトランプ米大統領である。当地にはかねて米軍部隊が駐留して衝突を防いできたが、先日に突然撤退を発表し、攻撃を事実上黙認する姿勢を見せたからだ。
あとになって攻撃を「支持しない」との声明を出したが、ならばトルコに対して明確に軍事行動の停止を求めるべきだ。
シリアの内戦をめぐっては先月、国連の仲介で各勢力が憲法委員会の設立に合意した。和平の機運が生まれた矢先であり、水をさしてはならない。
トルコには、シリアの難民が約360万人いる。当局は新たな「安全地帯」に200万人を移す計画だ。難民を抱える負担は分かるが、軍事力で強行する理由にはならない。
トランプ氏に対しては米議会の与党も反発している。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のためにクルド人勢力は米軍にかわり地上戦を担い、多数の犠牲者を出してきた。
その友軍を見捨てたトランプ氏の決断は、自らの選挙公約である中東からの撤兵を優先したものだ。国内政治の思惑次第では、緊密な同盟相手でも、やすやすと立場を無視する――そんなトランプ流の米国第一主義がここでも露呈している。
米軍が海外駐留の規模を種々の状況に応じて増減させるのは当然だが、今の中東の混乱には米国が一方的に始めたイラク戦争が深い影響を残している。和平の青写真もないまま撤退するのは無責任すぎる。
来年の米大統領選へ向け、トランプ氏が即興的な決断を下す恐れは今後も続くだろう。米国が自分の利害だけを基準に行動する今、北朝鮮やイラン問題についても米国に全幅の信頼を置くことはどの国もできない。
国際社会は、国連を含むあらゆる場を活用して多国間協調での取り組みを強めるほかない。シリアでは内戦を終わらせ、和平の道筋をつける必要がある。トルコとの友好関係を持つ日本も、その先頭に立つべきだ。