(斜面)「芸術・政治・経済の三権分立」 - 信濃毎日新聞(2019年10月10日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191010/KT191009ETI090006000.php
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芸術家の岡本太郎さんの個展が東京で開かれた時のこと。一人の女性が2時間も絵の前にたたずんだ末に「いやな感じ!」と言い残して立ち去った。人づてに話を聞いた岡本さんは「それで良いのだ。絵を見せたかいがある」と喜んだ

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著書「自分の中に毒を持て」はここから展開する芸術論が面白い。芸術家は矛盾に体当たりし血を噴き出している。その生の証しである絵はいやらしく、ぐんと迫ってくるものだ。芸術は「きれい」「うまい」「心地よい」ものであってはいけない、と

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愛知県の国際芸術祭で「表現の不自由展・その後」が再開にこぎつけた。警備強化で入場者の人数が限られたものの、鑑賞した後には議論を交わす機会が設けられた。元慰安婦を象徴する少女像などを巡り異なる意見に出合う場になったようだ。再開の意義はあったのではないか

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不自由展を批判してきた河村たかし名古屋市長は会場の近くで10分ほど再開に抗議する座り込みをした。その市長の芸術観はいただけない。ネットメディアの取材に今後の芸術祭について答えている。「より厳しくチェックせな、になっちゃったがな」

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芸術祭を振り返り「みんな楽しゅう、現代アートのプロモーションをやってちょ、いうだけだったの」と続けた。岡本さんの持論は「芸術・政治・経済の三権分立」だ。「芸術=人間」が抜け落ちた社会を嘆き、人間復権を訴えた。市長に限らず昨今の政治家に読んでほしい芸術論である。