愛媛誤認逮捕 責任を問わないのか - 朝日新聞(2019年10月9日)

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当然行うべき捜査を怠り、無実の人を逮捕した。自白を強要するような取り調べもあった。謝罪では済まされない。尊厳を傷つけ、人権を侵害した責任を明らかにするべきだ。
タクシーを降りた際に運転手のバッグを盗んだとして愛媛県警山東署が7月、松山市内の20代の女性を逮捕したが、女性は不起訴となり、県警も誤認逮捕を認めた。県警が今月、その捜査の検証結果を公表した。
ずさんさにあぜんとする。
報告によると、車内のドライブレコーダーに助手席の女がバッグを持ち去る様子が映っており、付近の防犯カメラの映像から女のアパートを特定。このアパートに住む20代の女性を犯人だと思い込んだ。
ドラレコには音声も残され、同乗者が助手席の女を愛称で呼んでいたが正確に聞き取らず、同乗者に確認をしなかった。
映像には女の財布や携帯電話も映っていた。20代の女性のものとは異なったが、その食い違いを詰めなかった。
県警はさらに、20代女性を任意で事情聴取した際に撮った顔画像と、ドラレコの画像を識別システムにかけ、「矛盾はない」との鑑定結果を「同一人物」と過大評価した。
失態を次々と重ねただけではない。旧態依然とした取り調べの様子も浮き彫りになった。
女性は逮捕前の任意の取り調べ段階から一貫して容疑を否認し、釈放後に手記を通じてその様子を明らかにした。「犯人なら目の前にいるけど」「タクシーに乗った記憶ないの? 二重人格?」「就職も決まってるなら大事(おおごと)にしたくないよね?」「君が認めたら終わる話」。警察はこんな言動を重ねた。
県警は指摘をおおむね認め、「不適切だった」とした。しかし、「違法とは認められない」として誰も処分しない方針だ。
驚きを禁じ得ない。容疑者と決めつける密室での取り調べが冤罪(えんざい)を生む構図は、繰り返し指摘されてきたはずだ。女性が「自白の強要をされたという認識に変わりはない」と訴えていることを深刻に受け止めねばならない。
検証は愛媛県警が自ら実施した。適正かつ徹底的に行われたのか。甘い認識と対応を見るにつけ、そんな疑問すら湧く。
県警が自らをただせないのなら、警察庁が対応するべきだ。捜査で映像の重要性が増すなか、罪のない人が逮捕される事例はほかにも見られる。今回の捜査の問題点と教訓を警察全体で共有する必要がある。
愛媛県議会の役割も大きい。県警の検証をチェックし、責任を問う。県民代表としての責務を果たすべきだ。