NHKのかんぽ報道 揺らいだ公共放送の理念 - 毎日新聞(2019年10月4日)

https://mainichi.jp/articles/20191004/ddm/005/070/073000c
http://archive.today/2019.10.04-002757/https://mainichi.jp/articles/20191004/ddm/005/070/073000c

公共放送としての理念を揺るがす事態ではないか。
かんぽ生命保険の不正販売を追及したNHKの番組「クローズアップ現代+(プラス)」を巡り、日本郵政グループから抗議を受けた経営委員会が、上田良一会長を厳重注意していた。
上田会長は郵政側に文書を送り、事実上謝罪した。これに先立ち、NHKは続編の放送を延期し、情報提供を求める動画2本をインターネット上から削除した。
経営委はNHKの最高意思決定機関であり、会長の任免権を持つ。ただし、放送法は経営委が個別番組に介入することを禁じている。
異例の厳重注意は、番組の編集権を巡るNHK内の「ガバナンス(統治)体制の強化」などが名目だ。
経営委は介入はなかったと説明し、きのう記者会見した上田会長も現場への圧力を否定する。
しかし、被害拡大へ警鐘を鳴らすのが報道機関としての役目だったはずだ。番組内容に誤りがあったのならともかく、郵政側の筋違いの要求に屈したことには首をかしげざるを得ない。
実際、顧客に不利益を与えた疑いのあるかんぽ生命の契約件数は、約18万3000件まで膨れ上がった。
軽視できないのは、郵政幹部に放送行政を所管する総務省出身者が少なくない点である。
鈴木康雄・日本郵政上級副社長は元事務次官だ。上田会長から謝罪文書を受け取った直後、経営委に文書を送り、NHK執行部に対する強力な指導・監督を注文していた。
きのうは、NHKの取材手法を「まるで暴力団」とまで批判した。
郵政側による抗議が繰り返されたのは、総務省有識者会議でNHK番組のネットへの常時同時配信へ向けた議論が進められていた時期に重なる。
こうした背景が抗議への過剰な対応につながったのではないか。
経営委が厳重注意の事実を議事録に掲載しなかったのも、やましさゆえと思われても仕方がない。
NHKは、ネットを含めた公共メディアを目指している。今回の経緯を検証し、事実をつまびらかにしなければ、視聴者の信頼はつなぎ留められまい。