NHK経営委 番組への介入許されぬ - 東京新聞(2019年10月4日)

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かんぽ生命保険の不正販売問題を報じたNHK番組に経営委員会が圧力をかけていた。NHK会長を厳重注意したのだ。だが、明白な不正はあった。番組への不当な介入は厳しく戒めねばならぬ。
問題となったのは昨年四月に放送された「クローズアップ現代+(プラス)」。「郵便局が保険を“押し売り”!? 郵便局員たちの告白」と題した番組だ。
すると日本郵政グループがNHKの上田良一会長宛てに「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」との趣旨の抗議文を送った。NHK経営委も昨年十月に日本郵政側の申し入れを受け、上田会長を厳重注意した。結果的にNHKは続編の放送を見送ることになった。郵政側の抗議が影響した可能性は濃厚だ。
問題はいくつもある。戦時中の反省から番組制作と経営とは分離する定めがある。それが放送法三二条で、経営委が個別番組の編集に介入・干渉することを禁じている。経営委の行動は圧力そのものであろう。越権行為で、法に抵触する疑いがある。これを許せば番組制作の現場が萎縮するのは明白だ。国会などで厳しく追及すべきである。
しかも会長への厳重注意は議事録に掲載されなかった。経営委はNHKの最高意思決定機関だから、透明性確保のため放送法で議事録作成と公表を義務づけている。これにも反しよう。「会長への注意は圧力ではない」「視聴者対応としての注意。経営委の議題ではなく、議事録掲載の必要もない」と釈明しているが、認識が甘いのではなかろうか。
かんぽ生命保険の中間報告では二〇一四年度から一八年度までに不正販売とみられる契約が約六千三百件もあった。九月末に判明した数字だ。NHKに抗議する前にまず日本郵政は自ら調査をする必要があったはずである。
日本郵政の上級副社長は放送行政を所管する総務省の元事務次官でもある。NHKも「二回目の放送はしない」と安易に連絡した。しかも謝罪文書を郵政側に手渡したのは放送部門トップの放送総局長だった。続編の番組は日本郵政が不正を認めた後に放送された。これでは番組が抗議と圧力にやすやすと屈したに等しい。
「自主自律」であるべきの放送の前提が崩壊している。経営委や会長は猛省が必要であり、責任追及されて当然だ。NHKは番組編集の在り方を自覚し、その使命を真剣に見つめ直してほしい。