(筆洗) シラク元大統領。希代の日本好きの政治家。 - 東京新聞(2019年9月28日)

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パリの名門高校に通う男子生徒はある日、通学の途中に運命の出会いをする。フランスのメディアは「恋に落ちたのだ」と書いている。ジャック・シラク元大統領である。
道草のように入ったギメ東洋美術館で、東洋、わけても日本の文化に心を奪われる。学校に行かず、入り浸ることになったと告白している。思いは高じるばかりだったようだ。希代の日本好きの政治家となる。八十六歳で亡くなった。
相撲をはじめ造詣の深さは伝統芸能や歴史、文芸に及んだ。日本の政治家が日本文化について語り合うのをいやがったほどだったと聞く。奥の細道を私的に旅していたり、仏紙によると、福沢諭吉の警句を愛していたり。そこまで好きだったのかと思わせる逸話が数多い。
外交でフランスの価値観を追求するドゴール流の本流の政治家だ。核実験を強行した際は日本から沸き上がった非難の的になっている。相思相愛といかない時期もあった。
日本への貢献を伝える話は多い。首脳会議で、当時の橋本龍太郎首相が、各国から難じられた時、救ったのがシラク氏であった。パリ日本文化会館の館長だった磯村尚徳さんが著書に記している。
「私は日本が好きです。その文化、伝統、生き方…」。ラブレターのような演説も残る。長い恋は報われたか。日本通、日本好きとして肩を並べる西洋の指導者は、これからも現れそうにない。