NHK番組への圧力 公共放送の自律を脅かす - 琉球新報(2019年9月28日)

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公共放送の自主自律を脅かす深刻な事態である。
かんぽ生命保険の不正販売問題を報じたNHKの番組を巡り、NHKの経営委員会が昨年10月、日本郵政グループから抗議を受けて、「ガバナンス(企業統治)強化」の趣旨でNHK会長を厳重注意していた。
まず指摘しなければならないのは郵政グループの不誠実な対応だ。不正販売の究明と是正に集中して取り組むべきであるにもかかわらず、報道したNHKに矛先を向けた。
問題とされたのは、NHKが昨年4月に放送した報道情報番組「クローズアップ現代+(プラス)」だ。郵便局が保険を「押し売り」している実態を伝えた。
続編を企画した制作現場は、情報提供を呼び掛ける動画を昨年7月上旬、ネット上に投稿する。これに対し郵政側が「組織ぐるみでやっている印象を与える」との趣旨の抗議文をNHK会長宛てに送り、動画の削除を求めた。
言うまでもなく情報提供の呼び掛けは不正の実態解明に役立つ。郵政側が動画の削除を求めたのは、不正が次々と明るみに出る事態を避けたかったからではないのか。反省するどころか、問題を矮小(わいしょう)化し、臭い物にふたをする姿勢が透けて見える。
NHKの対応は問題だらけだ。投稿していた動画を昨年8月上旬に削除した。「一定の役割を果たしたため」というのが理由だが、要求に屈した疑いが強い。正確な報道のためには、より多くの証言を集める方がいいからだ。
郵政側とのやりとりの中で番組担当者が「会長は制作に関与しない」との趣旨の説明をしたため、郵政側は経営委に文書でガバナンス体制強化を要請した。NHK会長は「誤った説明だった」と郵政側に事実上謝罪した。続編の放送は今年7月までずれ込んだ。
個別の苦情に、最高意思決定機関である経営委が動き、会長が釈明するのは異常と言うほかない。日本郵政筆頭株主は日本政府だ。政権に近い郵政グループだから特別な対応をしたのであれば、それこそ公正さを欠いている。
郵政側が問題視した「クローズアップ現代+」は、かんぽ生命保険の販売を巡る不正をいち早く報じた。経営委は、その社会的意義をどこまで理解しているのか。被害者に寄り添うよりも、加害者側の立場に配慮しているように見える。国民の目線とは程遠い。
経営委は個別番組の編集に関与できない。今回の厳重注意は、ガバナンス強化の趣旨であっても、番組に対する圧力と受け取られかねない。より良い社会を築こうと奮闘する制作現場の努力を踏みにじる行為と言っていい。
経営委に求められるのは、権力からのあらゆる圧力をはねのけ、自主自律を堅持する態度を貫くことだ。郵政側から要請があったからといって右往左往するようでは公共放送の使命は果たせない。