英首相への「違法」判決 議会との対話が不可欠だ - 毎日新聞(2019年9月26日)

https://mainichi.jp/articles/20190926/ddm/005/070/022000c
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英国の欧州連合(EU)離脱期限が迫る中、ジョンソン首相が約5週間にわたる議会閉会を決めたのは「違法」との判決を最高裁が下した。
議会には「どう離脱するか、発言する権利がある」のに、「妥当な理由なく、憲法上の機能を果たすことを妨げた」と結論付けた。
首相の権力行使の行き過ぎに歯止めをかけた司法判断である。首相は判決に従い、議会との敵対姿勢を改め、対話に応じるべきだ。
閉会について首相は新政権の政策を準備するためと説明したが、「議会封じ」と反発を招いた。適法性を巡り、下級審は「司法判断に適さない」と「違法」で割れていた。
注目すべきなのは、最高裁が議会閉会の弊害に関して「英国の民主主義の基礎に及ぼした影響は甚大だ」と指摘している点である。
議会は国民の代表が合議し、国の針路を決める代議制民主政治の骨格である。その骨格が揺らいだとの危機感が最高裁にあったのだろう。
「すべて権力を持つ者はそれを乱用しがちである」。仏思想家モンテスキューは「法の精神」で警鐘を鳴らし、行政・立法・司法の三権分立を提唱した。権力の相互監視によって権力を抑制するという考えだ。
最高裁は、首相による議会閉鎖が「法の支配」の下で正当性を欠くと断じた。首相は判決を「尊重する」という。だが、「(期限の)10月31日までに離脱する」と強調し、「合意なき離脱」も辞さない構えだ。
議会や多くの国民は混乱必至の「合意なき離脱」を望んでいない。税関手続きで物流が滞り、経済や暮らしに深刻な影響が出る。
議会の閉会措置は超党派の反ジョンソン勢力を結束させた。その結果、合意が離脱期限に間に合わなければ、EUに延期を申し出るよう首相に義務付ける法律ができた。
懸念されるのは、首相が期限を延期せず、離脱に突き進む奇策が取りざたされていることだ。首相は今こそ離脱問題での議会審議を尽くし、「合意なし」を回避すべきだ。
既成政治を脅かすポピュリズム大衆迎合主義)が台頭する中、日本を含め世界各国で議会のあり方が問われている。ジョンソン氏は議院内閣制の伝統を誇る英国の首相として、議会の声に耳を傾けるときだ。