HIV判決 根強い偏見なくす一歩に - 信濃毎日新聞(2019年9月25日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190925/KT190924ETI090010000.php
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エイズウイルス(HIV)に感染していることを就職先に告げる義務はない―。感染を告知しなかったことを理由に就職の内定を取り消したのは違法とする判決を札幌地裁が言い渡した。
北海道の病院から内定を取り消された社会福祉士の男性が起こした裁判である。他の人に感染する危険は無視できるほど小さく、告げる必要があったとは言えないと述べ、賠償を病院側に命じた。
事業者が採用にあたって感染の有無を確認することも許されないと指摘している。当事者への偏見や差別をなくしていく一歩として意義がある司法判断だ。
男性は採用面接で持病があるか聞かれたが、HIVの感染は告げなかった。病院側は、男性が過去に受診した際のカルテを見て感染していることを知ったという。判決はそのことも医療情報の目的外使用にあたり、プライバシーを侵害したと認定した。
エイズは、HIVが白血球に感染し、免疫機能が低下して起きる病気の総称だ。1980年代に報告された当初は「死の病」と恐れられ、国内ではパニックに近い反応も起きた。
その後、治療法は飛躍的に進歩している。90年代には、作用が異なる薬を組み合わせる多剤併用療法が確立され、感染しても早期に診断、治療を受ければ、健康な人と変わらない生活を送れるようになった。現在は、1日1回1錠の服用で済む薬もある。
もともとHIVの感染力は弱い。服薬により増殖を抑え、血液中からウイルスを検出できない状態を保てば、他の人に感染させる危険はなくなる。
医師や看護師として医療に従事することを含め、就く職業に制約はない。厚生労働省は指針で、感染を理由にした就業の制限や不利益な取り扱いを禁じている。
誤解や偏見はいまだに根強い。内閣府の昨年の世論調査では、「死に至る病」と答えた人が半数を超えた。医療機関でさえ、人工透析が必要になった感染者の受け入れを拒んだり、歯科の診療を断ったりする事例が目につく。
周囲の目を恐れ、感染していることを知られまいとする当事者は多い。支援団体の調査では、職場の誰かに伝えた人は2割ほどにとどまるという。
苦しむ当事者を孤立させない職場、社会をどうつくっていくか。今回の判決も一つのきっかけに、エイズHIVについて認識を深め、偏見や無理解の厚い覆いを取り除いていきたい。