旧東独の右傾化 不満の行き先が心配だ - 東京新聞(2019年9月3日)

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旧東ドイツ地域の州議会選で、排外主義の右派政党が躍進した。メルケル政権への反発と、統一後約三十年たっても残る不満や不安を吸収した。不寛容な空気が広がっているのが心配だ。

州議会選があったのは、ザクセンブランデンブルク両州。躍進したのは「ドイツのための選択肢(AfD)」。もともと反ユーロ政党として発足したが、四年前、メルケル首相の難民大量受け入れ表明後、難民移民排斥を強調し、二年前、連邦議会(下院)選挙で第三党に躍進した。

ナチス的言動を容認し、ネオナチとのつながりも指摘されるなど、極右的傾向も強い。

今回、両州で得票率を二倍以上に伸ばし、第二党となった。得票率は総選挙時に比べても倍増し、旧東独地域での支持基盤の強さを示した。ただ、いずれの州でも、メルケル政権の国政与党が第一党を辛うじて守り、政局の混乱は当面、避けられる見通しだ。

AfDは旧東独地域にまん延している不公平感を追い風にした。

統一後、政界、経済界の指導層の多くは旧西独出身者に取って代わられた。復興は進んだものの、旧西独地域との経済格差は埋まらない。失業への不安は大きく、難民らに仕事を奪われかねないとの警戒感も強い。

四年前の大量難民受け入れ時、ザクセン州のある市では、州政府が難民収容施設を建設するため、大工用品などが手に入るホームセンターを取り壊した。抗議デモは無視された。各地で相次いだ難民受け入れ強行に、政権へのうらみも募った。

争点は難民問題だけではない。温暖化対策のため、メルケル政権は二〇三八年までの石炭火力発電廃止を目指す。AfDはこれに反対し、褐炭採掘に従事する旧東独地域の人たちを安堵(あんど)させた。

不満や不安は分かる。しかし、それを難民らへの差別や憎悪に向けるのは筋違いだろう。

ドイツはナチスの過去を繰り返すまいと、寛容と多文化共存を国是としてきた。トランプ米政権登場以来、ドイツの存在感は強まっている。旧東独地域でも共存社会づくりが進むことを望みたい。

メルケル氏は人道、環境などの理念を重視する。まっとうなことだが、自らも育った旧東独地域の思いにも寄り添ってほしい。

ベルリンの壁崩壊から十一月で三十年。なお残るひずみを解消したい。